ルカによる福音書1章


ルカによる福音書

◆献呈の言葉

(1-2)わたしたちの間で実現した事柄について、最初から目撃して御言葉のために働いた人々がわたしたちに伝えたとおりに、物語を書き連ねようと、多くの人々が既に手を着けています。(3)そこで、敬愛するテオフィロさま、わたしもすべての事を初めから詳しく調べていますので、順序正しく書いてあなたに献呈するのがよいと思いました。(4)お受けになった教えが確実なものであることを、よく分かっていただきたいのであります。

◆洗礼者ヨハネの誕生、予告される
(5)ユダヤの王ヘロデの時代、アビヤ組の祭司にザカリアという人がいた。その妻はアロン家の娘の一人で、名をエリサベトといった。(6)二人とも神の前に正しい人で、主の掟と定めをすべて守り、非のうちどころがなかった。(7)しかし、エリサベトは不妊の女だったので、彼らには、子供がなく、二人とも既に年をとっていた。(8)さて、ザカリアは自分の組が当番で、神の御前で祭司の務めをしていたとき、(9)祭司職のしきたりによってくじを引いたところ、主の聖所に入って香をたくことになった。(10)香をたいている間、大勢の民衆が皆外で祈っていた。(11)すると、主の天使が現れ、香壇の右に立った。(12)ザカリアはそれを見て不安になり、恐怖の念に襲われた。(13)天使は言った。「恐れることはない。ザカリア、あなたの願いは聞き入れられた。あなたの妻エリサベトは男の子を産む。その子をヨハネと名付けなさい。(14)その子はあなたにとって喜びとなり、楽しみとなる。多くの人もその誕生を喜ぶ。(15)彼は主の御前に偉大な人になり、ぶどう酒や強い酒を飲まず、既に母の胎にいるときから聖霊に満たされていて、(16)イスラエルの多くの子らをその神である主のもとに立ち帰らせる。(17)彼はエリヤの霊と力で主に先立って行き、父の心を子に向けさせ、逆らう者に正しい人の分別を持たせて、準備のできた民を主のために用意する。」(18)そこで、ザカリアは天使に言った。「何によって、わたしはそれを知ることができるのでしょうか。わたしは老人ですし、妻も年をとっています。」(19)天使は答えた。「わたしはガブリエル、神の前に立つ者。あなたに話しかけて、この喜ばしい知らせを伝えるために遣わされたのである。(20)あなたは口が利けなくなり、この事の起こる日まで話すことができなくなる。時が来れば実現するわたしの言葉を信じなかったからである。」

【新約・100頁】
(21)民衆はザカリアを待っていた。そして、彼が聖所で手間取るのを、不思議に思っていた。(22)ザカリアはやっと出て来たけれども、話すことができなかった。そこで、人々は彼が聖所で幻を見たのだと悟った。ザカリアは身振りで示すだけで、口が利けないままだった。(23)やがて、務めの期間が終わって自分の家に帰った。(24)その後、妻エリサベトは身ごもって、五か月の間身を隠していた。そして、こう言った。(25)「主は今こそ、こうして、わたしに目を留め、人々の間からわたしの恥を取り去ってくださいました。」

◆イエスの誕生が予告される
(26)六か月目に、天使ガブリエルは、ナザレというガリラヤの町に神から遣わされた。(27)ダビデ家のヨセフという人のいいなずけであるおとめのところに遣わされたのである。そのおとめの名はマリアといった。(28)天使は、彼女のところに来て言った。「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる。」(29)マリアはこの言葉に戸惑い、いったいこの挨拶は何のことかと考え込んだ。(30)すると、天使は言った。「マリア、恐れることはない。あなたは神から恵みをいただいた。(31)あなたは身ごもって男の子を産むが、その子をイエスと名付けなさい。(32)その子は偉大な人になり、いと高き方の子と言われる。神である主は、彼に父ダビデの王座をくださる。(33)彼は永遠にヤコブの家を治め、その支配は終わることがない。」(34)マリアは天使に言った。「どうして、そのようなことがありえましょうか。わたしは男の人を知りませんのに。」(35)天使は答えた。「聖霊があなたに降り、いと高き方の力があなたを包む。だから、生まれる子は聖なる者、神の子と呼ばれる。(36)あなたの親類のエリサベトも、年をとっているが、男の子を身ごもっている。不妊の女と言われていたのに、もう六か月になっている。(37)神にできないことは何一つない。」(38)マリアは言った。「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように。」そこで、天使は去って行った。

◆マリア、エリサベトを訪ねる
(39)そのころ、マリアは出かけて、急いで山里に向かい、ユダの町に行った。(40)そして、ザカリアの家に入ってエリサベトに挨拶した。(41)マリアの挨拶をエリサベトが聞いたとき、その胎内の子がおどった。エリサベトは聖霊に満たされて、(42)声高らかに言った。「あなたは女の中で祝福された方です。胎内のお子さまも祝福されています。(43)わたしの主のお母さまがわたしのところに来てくださるとは、どういうわけでしょう。
【新約・101頁】
(44)あなたの挨拶のお声をわたしが耳にしたとき、胎内の子は喜んでおどりました。(45)主がおっしゃったことは必ず実現すると信じた方は、なんと幸いでしょう。」

◆マリアの賛歌
(46)そこで、マリアは言った。
(47)「わたしの魂は主をあがめ、
わたしの霊は救い主である神を喜びたたえます。
(48)身分の低い、この主のはしためにも
目を留めてくださったからです。
今から後、いつの世の人も
わたしを幸いな者と言うでしょう、
(49)力ある方が、
わたしに偉大なことをなさいましたから。
その御名は尊く、
(50)その憐れみは代々に限りなく、
主を畏れる者に及びます。
(51)主はその腕で力を振るい、
思い上がる者を打ち散らし、
(52)権力ある者をその座から引き降ろし、
身分の低い者を高く上げ、
(53)飢えた人を良い物で満たし、
富める者を空腹のまま追い返されます。
(54)その僕イスラエルを受け入れて、
憐れみをお忘れになりません、
(55)わたしたちの先祖におっしゃったとおり、
アブラハムとその子孫に対してとこしえに。」
(56)マリアは、三か月ほどエリサベトのところに滞在してから、自分の家に帰った。

◆洗礼者ヨハネの誕生
(57)さて、月が満ちて、エリサベトは男の子を産んだ。(58)近所の人々や親類は、主がエリサベトを大いに慈しまれたと聞いて喜び合った。(59)八日目に、その子に割礼を施すために来た人々は、父の名を取ってザカリアと名付けようとした。(60)ところが、母は、「いいえ、名はヨハネとしなければなりません」と言った。(61)しかし人々は、「あなたの親類には、そういう名の付いた人はだれもいない」と言い、(62)父親に、「この子に何と名を付けたいか」と手振りで尋ねた。(63)父親は字を書く板を出させて、「この子の名はヨハネ」と書いたので、人々は皆驚いた。(64)すると、たちまちザカリアは口が開き、舌がほどけ、神を賛美し始めた。(65)近所の人々は皆恐れを感じた。そして、このことすべてが、ユダヤの山里中で話題になった。
【新約・102頁】
(66)聞いた人々は皆これを心に留め、「いったい、この子はどんな人になるのだろうか」と言った。この子には主の力が及んでいたのである。

◆ザカリアの預言
(67)父ザカリアは聖霊に満たされ、こう預言した。
(68)「ほめたたえよ、イスラエルの神である主を。
主はその民を訪れて解放し、
(69)我らのために救いの角を、
僕ダビデの家から起こされた。
(70)昔から聖なる預言者たちの口を通して
語られたとおりに。
(71)それは、我らの敵、
すべて我らを憎む者の手からの救い。
(72)主は我らの先祖を憐れみ、
その聖なる契約を覚えていてくださる。
(73)これは我らの父アブラハムに立てられた誓い。
こうして我らは、
(74)敵の手から救われ、
恐れなく主に仕える、
(75)生涯、主の御前に清く正しく。
(76)幼子よ、お前はいと高き方の預言者と呼ばれる。
主に先立って行き、その道を整え、
(77)主の民に罪の赦しによる救いを
知らせるからである。
(78)これは我らの神の憐れみの心による。
この憐れみによって、
高い所からあけぼのの光が我らを訪れ、
(79)暗闇と死の陰に座している者たちを照らし、
我らの歩みを平和の道に導く。」
(80)幼子は身も心も健やかに育ち、イスラエルの人々の前に現れるまで荒れ野にいた。

◆イエスの誕生

(1)そのころ、皇帝アウグストゥスから全領土の住民に、登録をせよとの勅令が出た。(2)これは、キリニウスがシリア州の総督であったときに行われた最初の住民登録である。(3)人々は皆、登録するためにおのおの自分の町へ旅立った。(4)ヨセフもダビデの家に属し、その血筋であったので、ガリラヤの町ナザレから、ユダヤのベツレヘムというダビデの町へ上って行った。(5)身ごもっていた、いいなずけのマリアと一緒に登録するためである。(6)ところが、彼らがベツレヘムにいるうちに、マリアは月が満ちて、(7)初めての子を産み、布にくるんで飼い葉桶に寝かせた。宿屋には彼らの泊まる場所がなかったからである。

◆羊飼いと天使

【新約・103頁】
(8)その地方で羊飼いたちが野宿をしながら、夜通し羊の群れの番をしていた。(9)すると、主の天使が近づき、主の栄光が周りを照らしたので、彼らは非常に恐れた。(10)天使は言った。「恐れるな。わたしは、民全体に与えられる大きな喜びを告げる。(11)今日ダビデの町で、あなたがたのために救い主がお生まれになった。この方こそ主メシアである。(12)あなたがたは、布にくるまって飼い葉桶の中に寝ている乳飲み子を見つけるであろう。これがあなたがたへのしるしである。」(13)すると、突然、この天使に天の大軍が加わり、神を賛美して言った。
(14)「いと高きところには栄光、神にあれ、
地には平和、御心に適う人にあれ。」
(15)天使たちが離れて天に去ったとき、羊飼いたちは、「さあ、ベツレヘムへ行こう。主が知らせてくださったその出来事を見ようではないか」と話し合った。(16)そして急いで行って、マリアとヨセフ、また飼い葉桶に寝かせてある乳飲み子を探し当てた。(17)その光景を見て、羊飼いたちは、この幼子について天使が話してくれたことを人々に知らせた。(18)聞いた者は皆、羊飼いたちの話を不思議に思った。(19)しかし、マリアはこれらの出来事をすべて心に納めて、思い巡らしていた。(20)羊飼いたちは、見聞きしたことがすべて天使の話したとおりだったので、神をあがめ、賛美しながら帰って行った。
(21)八日たって割礼の日を迎えたとき、幼子はイエスと名付けられた。これは、胎内に宿る前に天使から示された名である。

◆神殿で献げられる
(22)さて、モーセの律法に定められた彼らの清めの期間が過ぎたとき、両親はその子を主に献げるため、エルサレムに連れて行った。(23)それは主の律法に、「初めて生まれる男子は皆、主のために聖別される」と書いてあるからである。(24)また、主の律法に言われているとおりに、山鳩一つがいか、家鳩の雛二羽をいけにえとして献げるためであった。
(25)そのとき、エルサレムにシメオンという人がいた。この人は正しい人で信仰があつく、イスラエルの慰められるのを待ち望み、聖霊が彼にとどまっていた。(26)そして、主が遣わすメシアに会うまでは決して死なない、とのお告げを聖霊から受けていた。(27)シメオンが“霊”に導かれて神殿の境内に入って来たとき、両親は、幼子のために律法の規定どおりにいけにえを献げようとして、イエスを連れて来た。
【新約・104頁】
(28)シメオンは幼子を腕に抱き、神をたたえて言った。
(29)「主よ、今こそあなたは、お言葉どおり
この僕を安らかに去らせてくださいます。
(30)わたしはこの目であなたの救いを見たからです。
(31)これは万民のために整えてくださった救いで、
(32)異邦人を照らす啓示の光、
あなたの民イスラエルの誉れです。」
(33)父と母は、幼子についてこのように言われたことに驚いていた。(34)シメオンは彼らを祝福し、母親のマリアに言った。「御覧なさい。この子は、イスラエルの多くの人を倒したり立ち上がらせたりするためにと定められ、また、反対を受けるしるしとして定められています。(35)――あなた自身も剣で心を刺し貫かれます――多くの人の心にある思いがあらわにされるためです。」
(36)また、アシェル族のファヌエルの娘で、アンナという女預言者がいた。非常に年をとっていて、若いとき嫁いでから七年間夫と共に暮らしたが、(37)夫に死に別れ、八十四歳になっていた。彼女は神殿を離れず、断食したり祈ったりして、夜も昼も神に仕えていたが、(38)そのとき、近づいて来て神を賛美し、エルサレムの救いを待ち望んでいる人々皆に幼子のことを話した。

◆ナザレに帰る
(39)親子は主の律法で定められたことをみな終えたので、自分たちの町であるガリラヤのナザレに帰った。(40)幼子はたくましく育ち、知恵に満ち、神の恵みに包まれていた。

◆神殿での少年イエス
(41)さて、両親は過越祭には毎年エルサレムへ旅をした。(42)イエスが十二歳になったときも、両親は祭りの慣習に従って都に上った。(43)祭りの期間が終わって帰路についたとき、少年イエスはエルサレムに残っておられたが、両親はそれに気づかなかった。(44)イエスが道連れの中にいるものと思い、一日分の道のりを行ってしまい、それから、親類や知人の間を捜し回ったが、(45)見つからなかったので、捜しながらエルサレムに引き返した。(46)三日の後、イエスが神殿の境内で学者たちの真ん中に座り、話を聞いたり質問したりしておられるのを見つけた。(47)聞いている人は皆、イエスの賢い受け答えに驚いていた。(48)両親はイエスを見て驚き、母が言った。「なぜこんなことをしてくれたのです。御覧なさい。お父さんもわたしも心配して捜していたのです。」
【新約・105頁】
(49)すると、イエスは言われた。「どうしてわたしを捜したのですか。わたしが自分の父の家にいるのは当たり前だということを、知らなかったのですか。」(50)しかし、両親にはイエスの言葉の意味が分からなかった。(51)それから、イエスは一緒に下って行き、ナザレに帰り、両親に仕えてお暮らしになった。母はこれらのことをすべて心に納めていた。(52)イエスは知恵が増し、背丈も伸び、神と人とに愛された。

◆洗礼者ヨハネ、教えを宣べる

(1)皇帝ティベリウスの治世の第十五年、ポンティオ・ピラトがユダヤの総督、ヘロデがガリラヤの領主、その兄弟フィリポがイトラヤとトラコン地方の領主、リサニアがアビレネの領主、(2)アンナスとカイアファとが大祭司であったとき、神の言葉が荒れ野でザカリアの子ヨハネに降った。(3)そこで、ヨハネはヨルダン川沿いの地方一帯に行って、罪の赦しを得させるために悔い改めの洗礼を宣べ伝えた。(4)これは、預言者イザヤの書に書いてあるとおりである。
「荒れ野で叫ぶ者の声がする。
『主の道を整え、
その道筋をまっすぐにせよ。
(5)谷はすべて埋められ、
山と丘はみな低くされる。
曲がった道はまっすぐに、
でこぼこの道は平らになり、
(6)人は皆、神の救いを仰ぎ見る。』」
(7)そこでヨハネは、洗礼を授けてもらおうとして出て来た群衆に言った。「蝮の子らよ、差し迫った神の怒りを免れると、だれが教えたのか。(8)悔い改めにふさわしい実を結べ。『我々の父はアブラハムだ』などという考えを起こすな。言っておくが、神はこんな石ころからでも、アブラハムの子たちを造り出すことがおできになる。(9)斧は既に木の根元に置かれている。良い実を結ばない木はみな、切り倒されて火に投げ込まれる。」(10)そこで群衆は、「では、わたしたちはどうすればよいのですか」と尋ねた。(11)ヨハネは、「下着を二枚持っている者は、一枚も持たない者に分けてやれ。食べ物を持っている者も同じようにせよ」と答えた。(12)徴税人も洗礼を受けるために来て、「先生、わたしたちはどうすればよいのですか」と言った。(13)ヨハネは、「規定以上のものは取り立てるな」と言った。(14)兵士も、「このわたしたちはどうすればよいのですか」と尋ねた。ヨハネは、「だれからも金をゆすり取ったり、だまし取ったりするな。自分の給料で満足せよ」と言った。

【新約・106頁】
(15)民衆はメシアを待ち望んでいて、ヨハネについて、もしかしたら彼がメシアではないかと、皆心の中で考えていた。(16)そこで、ヨハネは皆に向かって言った。「わたしはあなたたちに水で洗礼を授けるが、わたしよりも優れた方が来られる。わたしは、その方の履物のひもを解く値打ちもない。その方は、聖霊と火であなたたちに洗礼をお授けになる。(17)そして、手に箕を持って、脱穀場を隅々まできれいにし、麦を集めて倉に入れ、殻を消えることのない火で焼き払われる。」(18)ヨハネは、ほかにもさまざまな勧めをして、民衆に福音を告げ知らせた。(19)ところで、領主ヘロデは、自分の兄弟の妻ヘロディアとのことについて、また、自分の行ったあらゆる悪事について、ヨハネに責められたので、(20)ヨハネを牢に閉じ込めた。こうしてヘロデは、それまでの悪事にもう一つの悪事を加えた。

◆イエス、洗礼を受ける
(21)民衆が皆洗礼を受け、イエスも洗礼を受けて祈っておられると、天が開け、(22)聖霊が鳩のように目に見える姿でイエスの上に降って来た。すると、「あなたはわたしの愛する子、わたしの心に適う者」という声が、天から聞こえた。

◆イエスの系図
(23)イエスが宣教を始められたときはおよそ三十歳であった。イエスはヨセフの子と思われていた。ヨセフはエリの子、それからさかのぼると、(24)マタト、レビ、メルキ、ヤナイ、ヨセフ、(25)マタティア、アモス、ナウム、エスリ、ナガイ、(26)マハト、マタティア、セメイン、ヨセク、ヨダ、(27)ヨハナン、レサ、ゼルバベル、シャルティエル、ネリ、(28)メルキ、アディ、コサム、エルマダム、エル、(29)ヨシュア、エリエゼル、ヨリム、マタト、レビ、(30)シメオン、ユダ、ヨセフ、ヨナム、エリアキム、(31)メレア、メンナ、マタタ、ナタン、ダビデ、(32)エッサイ、オベド、ボアズ、サラ、ナフション、(33)アミナダブ、アドミン、アルニ、ヘツロン、ペレツ、ユダ、(34)ヤコブ、イサク、アブラハム、テラ、ナホル、(35)セルグ、レウ、ペレグ、エベル、シェラ、(36)カイナム、アルパクシャド、セム、ノア、レメク、(37)メトシェラ、エノク、イエレド、マハラルエル、ケナン、(38)エノシュ、セト、アダム。そして神に至る。

◆誘惑を受ける


【新約・107頁】
(1)さて、イエスは聖霊に満ちて、ヨルダン川からお帰りになった。そして、荒れ野の中を“霊”によって引き回され、(2)四十日間、悪魔から誘惑を受けられた。その間、何も食べず、その期間が終わると空腹を覚えられた。(3)そこで、悪魔はイエスに言った。「神の子なら、この石にパンになるように命じたらどうだ。」(4)イエスは、「『人はパンだけで生きるものではない』と書いてある」とお答えになった。(5)更に、悪魔はイエスを高く引き上げ、一瞬のうちに世界のすべての国々を見せた。(6)そして悪魔は言った。「この国々の一切の権力と繁栄とを与えよう。それはわたしに任されていて、これと思う人に与えることができるからだ。(7)だから、もしわたしを拝むなら、みんなあなたのものになる。」(8)イエスはお答えになった。
「『あなたの神である主を拝み、
ただ主に仕えよ』
と書いてある。」(9)そこで、悪魔はイエスをエルサレムに連れて行き、神殿の屋根の端に立たせて言った。「神の子なら、ここから飛び降りたらどうだ。(10)というのは、こう書いてあるからだ。
『神はあなたのために天使たちに命じて、
あなたをしっかり守らせる。』
(11)また、
『あなたの足が石に打ち当たることのないように、
天使たちは手であなたを支える。』」
(12)イエスは、「『あなたの神である主を試してはならない』と言われている」とお答えになった。(13)悪魔はあらゆる誘惑を終えて、時が来るまでイエスを離れた。

◆ガリラヤで伝道を始める
(14)イエスは“霊”の力に満ちてガリラヤに帰られた。その評判が周りの地方一帯に広まった。(15)イエスは諸会堂で教え、皆から尊敬を受けられた。

◆ナザレで受け入れられない
(16)イエスはお育ちになったナザレに来て、いつものとおり安息日に会堂に入り、聖書を朗読しようとしてお立ちになった。(17)預言者イザヤの巻物が渡され、お開きになると、次のように書いてある個所が目に留まった。
(18)「主の霊がわたしの上におられる。
貧しい人に福音を告げ知らせるために、
主がわたしに油を注がれたからである。
主がわたしを遣わされたのは、
捕らわれている人に解放を、
目の見えない人に視力の回復を告げ、
圧迫されている人を自由にし、

【新約・108頁】
(19)主の恵みの年を告げるためである。」
(20)イエスは巻物を巻き、係の者に返して席に座られた。会堂にいるすべての人の目がイエスに注がれていた。(21)そこでイエスは、「この聖書の言葉は、今日、あなたがたが耳にしたとき、実現した」と話し始められた。(22)皆はイエスをほめ、その口から出る恵み深い言葉に驚いて言った。「この人はヨセフの子ではないか。」(23)イエスは言われた。「きっと、あなたがたは、『医者よ、自分自身を治せ』ということわざを引いて、『カファルナウムでいろいろなことをしたと聞いたが、郷里のここでもしてくれ』と言うにちがいない。」(24)そして、言われた。「はっきり言っておく。預言者は、自分の故郷では歓迎されないものだ。(25)確かに言っておく。エリヤの時代に三年六か月の間、雨が降らず、その地方一帯に大飢饉が起こったとき、イスラエルには多くのやもめがいたが、(26)エリヤはその中のだれのもとにも遣わされないで、シドン地方のサレプタのやもめのもとにだけ遣わされた。(27)また、預言者エリシャの時代に、イスラエルにはらい病を患っている人が多くいたが、シリア人ナアマンのほかはだれも清くされなかった。」(28)これを聞いた会堂内の人々は皆憤慨し、(29)総立ちになって、イエスを町の外へ追い出し、町が建っている山の崖まで連れて行き、突き落とそうとした。(30)しかし、イエスは人々の間を通り抜けて立ち去られた。

◆汚れた霊に取りつかれた男をいやす
(31)イエスはガリラヤの町カファルナウムに下って、安息日には人々を教えておられた。(32)人々はその教えに非常に驚いた。その言葉には権威があったからである。(33)ところが会堂に、汚れた悪霊に取りつかれた男がいて、大声で叫んだ。(34)「ああ、ナザレのイエス、かまわないでくれ。我々を滅ぼしに来たのか。正体は分かっている。神の聖者だ。」(35)イエスが、「黙れ。この人から出て行け」とお叱りになると、悪霊はその男を人々の中に投げ倒し、何の傷も負わせずに出て行った。(36)人々は皆驚いて、互いに言った。「この言葉はいったい何だろう。権威と力とをもって汚れた霊に命じると、出て行くとは。」(37)こうして、イエスのうわさは、辺り一帯に広まった。

◆多くの病人をいやす

【新約・109頁】
(38)イエスは会堂を立ち去り、シモンの家にお入りになった。シモンのしゅうとめが高い熱に苦しんでいたので、人々は彼女のことをイエスに頼んだ。(39)イエスが枕もとに立って熱を叱りつけられると、熱は去り、彼女はすぐに起き上がって一同をもてなした。(40)日が暮れると、いろいろな病気で苦しむ者を抱えている人が皆、病人たちをイエスのもとに連れて来た。イエスはその一人一人に手を置いていやされた。(41)悪霊もわめき立て、「お前は神の子だ」と言いながら、多くの人々から出て行った。イエスは悪霊を戒めて、ものを言うことをお許しにならなかった。悪霊は、イエスをメシアだと知っていたからである。

◆巡回して宣教する
(42)朝になると、イエスは人里離れた所へ出て行かれた。群衆はイエスを捜し回ってそのそばまで来ると、自分たちから離れて行かないようにと、しきりに引き止めた。(43)しかし、イエスは言われた。「ほかの町にも神の国の福音を告げ知らせなければならない。わたしはそのために遣わされたのだ。」(44)そして、ユダヤの諸会堂に行って宣教された。

◆漁師を弟子にする

(1)イエスがゲネサレト湖畔に立っておられると、神の言葉を聞こうとして、群衆がその周りに押し寄せて来た。(2)イエスは、二そうの舟が岸にあるのを御覧になった。漁師たちは、舟から上がって網を洗っていた。(3)そこでイエスは、そのうちの一そうであるシモンの持ち舟に乗り、岸から少し漕ぎ出すようにお頼みになった。そして、腰を下ろして舟から群衆に教え始められた。(4)話し終わったとき、シモンに、「沖に漕ぎ出して網を降ろし、漁をしなさい」と言われた。(5)シモンは、「先生、わたしたちは、夜通し苦労しましたが、何もとれませんでした。しかし、お言葉ですから、網を降ろしてみましょう」と答えた。(6)そして、漁師たちがそのとおりにすると、おびただしい魚がかかり、網が破れそうになった。(7)そこで、もう一そうの舟にいる仲間に合図して、来て手を貸してくれるように頼んだ。彼らは来て、二そうの舟を魚でいっぱいにしたので、舟は沈みそうになった。(8)これを見たシモン・ペトロは、イエスの足もとにひれ伏して、「主よ、わたしから離れてください。わたしは罪深い者なのです」と言った。(9)とれた魚にシモンも一緒にいた者も皆驚いたからである。(10)シモンの仲間、ゼベダイの子のヤコブもヨハネも同様だった。すると、イエスはシモンに言われた。「恐れることはない。今から後、あなたは人間をとる漁師になる。」
【新約・110頁】
(11)そこで、彼らは舟を陸に引き上げ、すべてを捨ててイエスに従った。

◆らい病を患っている人をいやす
(12)イエスがある町におられたとき、そこに、全身らい病にかかった人がいた。この人はイエスを見てひれ伏し、「主よ、御心ならば、わたしを清くすることがおできになります」と願った。(13)イエスが手を差し伸べてその人に触れ、「よろしい。清くなれ」と言われると、たちまちらい病は去った。(14)イエスは厳しくお命じになった。「だれにも話してはいけない。ただ、行って祭司に体を見せ、モーセが定めたとおりに清めの献げ物をし、人々に証明しなさい。」(15)しかし、イエスのうわさはますます広まったので、大勢の群衆が、教えを聞いたり病気をいやしていただいたりするために、集まって来た。(16)だが、イエスは人里離れた所に退いて祈っておられた。

◆中風の人をいやす
(17)ある日のこと、イエスが教えておられると、ファリサイ派の人々と律法の教師たちがそこに座っていた。この人々は、ガリラヤとユダヤのすべての村、そしてエルサレムから来たのである。主の力が働いて、イエスは病気をいやしておられた。(18)すると、男たちが中風を患っている人を床に乗せて運んで来て、家の中に入れてイエスの前に置こうとした。(19)しかし、群衆に阻まれて、運び込む方法が見つからなかったので、屋根に上って瓦をはがし、人々の真ん中のイエスの前に、病人を床ごとつり降ろした。(20)イエスはその人たちの信仰を見て、「人よ、あなたの罪は赦された」と言われた。(21)ところが、律法学者たちやファリサイ派の人々はあれこれと考え始めた。「神を冒涜するこの男は何者だ。ただ神のほかに、いったいだれが、罪を赦すことができるだろうか。」(22)イエスは、彼らの考えを知って、お答えになった。「何を心の中で考えているのか。(23)『あなたの罪は赦された』と言うのと、『起きて歩け』と言うのと、どちらが易しいか。(24)人の子が地上で罪を赦す権威を持っていることを知らせよう。」そして、中風の人に、「わたしはあなたに言う。起き上がり、床を担いで家に帰りなさい」と言われた。(25)その人はすぐさま皆の前で立ち上がり、寝ていた台を取り上げ、神を賛美しながら家に帰って行った。(26)人々は皆大変驚き、神を賛美し始めた。そして、恐れに打たれて、「今日、驚くべきことを見た」と言った。

◆レビを弟子にする

【新約・111頁】
(27)その後、イエスは出て行って、レビという徴税人が収税所に座っているのを見て、「わたしに従いなさい」と言われた。(28)彼は何もかも捨てて立ち上がり、イエスに従った。(29)そして、自分の家でイエスのために盛大な宴会を催した。そこには徴税人やほかの人々が大勢いて、一緒に席に着いていた。(30)ファリサイ派の人々やその派の律法学者たちはつぶやいて、イエスの弟子たちに言った。「なぜ、あなたたちは、徴税人や罪人などと一緒に飲んだり食べたりするのか。」(31)イエスはお答えになった。「医者を必要とするのは、健康な人ではなく病人である。(32)わたしが来たのは、正しい人を招くためではなく、罪人を招いて悔い改めさせるためである。」

◆断食についての問答
(33)人々はイエスに言った。「ヨハネの弟子たちは度々断食し、祈りをし、ファリサイ派の弟子たちも同じようにしています。しかし、あなたの弟子たちは飲んだり食べたりしています。」(34)そこで、イエスは言われた。「花婿が一緒にいるのに、婚礼の客に断食させることがあなたがたにできようか。(35)しかし、花婿が奪い取られる時が来る。その時には、彼らは断食することになる。」(36)そして、イエスはたとえを話された。「だれも、新しい服から布切れを破り取って、古い服に継ぎを当てたりはしない。そんなことをすれば、新しい服も破れるし、新しい服から取った継ぎ切れも古いものには合わないだろう。(37)また、だれも、新しいぶどう酒を古い革袋に入れたりはしない。そんなことをすれば、新しいぶどう酒は革袋を破って流れ出し、革袋もだめになる。(38)新しいぶどう酒は、新しい革袋に入れねばならない。(39)また、古いぶどう酒を飲めば、だれも新しいものを欲しがらない。『古いものの方がよい』と言うのである。」

◆安息日に麦の穂を摘む

(1)ある安息日に、イエスが麦畑を通って行かれると、弟子たちは麦の穂を摘み、手でもんで食べた。(2)ファリサイ派のある人々が、「なぜ、安息日にしてはならないことを、あなたたちはするのか」と言った。(3)イエスはお答えになった。「ダビデが自分も供の者たちも空腹だったときに何をしたか、読んだことがないのか。(4)神の家に入り、ただ祭司のほかにはだれも食べてはならない供えのパンを取って食べ、供の者たちにも与えたではないか。」
【新約・112頁】
(5)そして、彼らに言われた。「人の子は安息日の主である。」

◆手の萎えた人をいやす
(6)また、ほかの安息日に、イエスは会堂に入って教えておられた。そこに一人の人がいて、その右手が萎えていた。(7)律法学者たちやファリサイ派の人々は、訴える口実を見つけようとして、イエスが安息日に病気をいやされるかどうか、注目していた。(8)イエスは彼らの考えを見抜いて、手の萎えた人に、「立って、真ん中に出なさい」と言われた。その人は身を起こして立った。(9)そこで、イエスは言われた。「あなたたちに尋ねたい。安息日に律法で許されているのは、善を行うことか、悪を行うことか。命を救うことか、滅ぼすことか。」(10)そして、彼ら一同を見回して、その人に、「手を伸ばしなさい」と言われた。言われたようにすると、手は元どおりになった。(11)ところが、彼らは怒り狂って、イエスを何とかしようと話し合った。

◆十二人を選ぶ
(12)そのころ、イエスは祈るために山に行き、神に祈って夜を明かされた。(13)朝になると弟子たちを呼び集め、その中から十二人を選んで使徒と名付けられた。(14)それは、イエスがペトロと名付けられたシモン、その兄弟アンデレ、そして、ヤコブ、ヨハネ、フィリポ、バルトロマイ、(15)マタイ、トマス、アルファイの子ヤコブ、熱心党と呼ばれたシモン、(16)ヤコブの子ユダ、それに後に裏切り者となったイスカリオテのユダである。

◆おびただしい病人をいやす
(17)イエスは彼らと一緒に山から下りて、平らな所にお立ちになった。大勢の弟子とおびただしい民衆が、ユダヤ全土とエルサレムから、また、ティルスやシドンの海岸地方から、(18)イエスの教えを聞くため、また病気をいやしていただくために来ていた。汚れた霊に悩まされていた人々もいやしていただいた。(19)群衆は皆、何とかしてイエスに触れようとした。イエスから力が出て、すべての人の病気をいやしていたからである。

◆幸いと不幸
(20)さて、イエスは目を上げ弟子たちを見て言われた。
「貧しい人々は、幸いである、
神の国はあなたがたのものである。

【新約・113頁】
(21)今飢えている人々は、幸いである、
あなたがたは満たされる。
今泣いている人々は、幸いである、
あなたがたは笑うようになる。
(22)人々に憎まれるとき、また、人の子のために追い出され、ののしられ、汚名を着せられるとき、あなたがたは幸いである。(23)その日には、喜び踊りなさい。天には大きな報いがある。この人々の先祖も、預言者たちに同じことをしたのである。
(24)しかし、富んでいるあなたがたは、不幸である、
あなたがたはもう慰めを受けている。
(25)今満腹している人々、あなたがたは、不幸である、
あなたがたは飢えるようになる。
今笑っている人々は、不幸である、
あなたがたは悲しみ泣くようになる。
(26)すべての人にほめられるとき、あなたがたは不幸である。この人々の先祖も、偽預言者たちに同じことをしたのである。」

◆敵を愛しなさい
(27)「しかし、わたしの言葉を聞いているあなたがたに言っておく。敵を愛し、あなたがたを憎む者に親切にしなさい。(28)悪口を言う者に祝福を祈り、あなたがたを侮辱する者のために祈りなさい。(29)あなたの頬を打つ者には、もう一方の頬をも向けなさい。上着を奪い取る者には、下着をも拒んではならない。(30)求める者には、だれにでも与えなさい。あなたの持ち物を奪う者から取り返そうとしてはならない。(31)人にしてもらいたいと思うことを、人にもしなさい。(32)自分を愛してくれる人を愛したところで、あなたがたにどんな恵みがあろうか。罪人でも、愛してくれる人を愛している。(33)また、自分によくしてくれる人に善いことをしたところで、どんな恵みがあろうか。罪人でも同じことをしている。(34)返してもらうことを当てにして貸したところで、どんな恵みがあろうか。罪人さえ、同じものを返してもらおうとして、罪人に貸すのである。(35)しかし、あなたがたは敵を愛しなさい。人に善いことをし、何も当てにしないで貸しなさい。そうすれば、たくさんの報いがあり、いと高き方の子となる。いと高き方は、恩を知らない者にも悪人にも、情け深いからである。(36)あなたがたの父が憐れみ深いように、あなたがたも憐れみ深い者となりなさい。」

◆人を裁くな
(37)「人を裁くな。そうすれば、あなたがたも裁かれることがない。人を罪人だと決めるな。そうすれば、あなたがたも罪人だと決められることがない。赦しなさい。そうすれば、あなたがたも赦される。
【新約・114頁】
(38)与えなさい。そうすれば、あなたがたにも与えられる。押し入れ、揺すり入れ、あふれるほどに量りをよくして、ふところに入れてもらえる。あなたがたは自分の量る秤で量り返されるからである。」(39)イエスはまた、たとえを話された。「盲人が盲人の道案内をすることができようか。二人とも穴に落ち込みはしないか。(40)弟子は師にまさるものではない。しかし、だれでも、十分に修行を積めば、その師のようになれる。(41)あなたは、兄弟の目にあるおが屑は見えるのに、なぜ自分の目の中の丸太に気づかないのか。(42)自分の目にある丸太を見ないで、兄弟に向かって、『さあ、あなたの目にあるおが屑を取らせてください』と、どうして言えるだろうか。偽善者よ、まず自分の目から丸太を取り除け。そうすれば、はっきり見えるようになって、兄弟の目にあるおが屑を取り除くことができる。」

◆実によって木を知る
(43)「悪い実を結ぶ良い木はなく、また、良い実を結ぶ悪い木はない。(44)木は、それぞれ、その結ぶ実によって分かる。茨からいちじくは採れないし、野ばらからぶどうは集められない。(45)善い人は良いものを入れた心の倉から良いものを出し、悪い人は悪いものを入れた倉から悪いものを出す。人の口は、心からあふれ出ることを語るのである。」

◆家と土台
(46)「わたしを『主よ、主よ』と呼びながら、なぜわたしの言うことを行わないのか。(47)わたしのもとに来て、わたしの言葉を聞き、それを行う人が皆、どんな人に似ているかを示そう。(48)それは、地面を深く掘り下げ、岩の上に土台を置いて家を建てた人に似ている。洪水になって川の水がその家に押し寄せたが、しっかり建ててあったので、揺り動かすことができなかった。(49)しかし、聞いても行わない者は、土台なしで地面に家を建てた人に似ている。川の水が押し寄せると、家はたちまち倒れ、その壊れ方がひどかった。」

◆百人隊長の僕をいやす

(1)イエスは、民衆にこれらの言葉をすべて話し終えてから、カファルナウムに入られた。(2)ところで、ある百人隊長に重んじられている部下が、病気で死にかかっていた。(3)イエスのことを聞いた百人隊長は、ユダヤ人の長老たちを使いにやって、部下を助けに来てくださるように頼んだ。
【新約・115頁】
(4)長老たちはイエスのもとに来て、熱心に願った。「あの方は、そうしていただくのにふさわしい人です。(5)わたしたちユダヤ人を愛して、自ら会堂を建ててくれたのです。」(6)そこで、イエスは一緒に出かけられた。ところが、その家からほど遠からぬ所まで来たとき、百人隊長は友達を使いにやって言わせた。「主よ、御足労には及びません。わたしはあなたを自分の屋根の下にお迎えできるような者ではありません。(7)ですから、わたしの方からお伺いするのさえふさわしくないと思いました。ひと言おっしゃってください。そして、わたしの僕をいやしてください。(8)わたしも権威の下に置かれている者ですが、わたしの下には兵隊がおり、一人に『行け』と言えば行きますし、他の一人に『来い』と言えば来ます。また部下に『これをしろ』と言えば、そのとおりにします。」(9)イエスはこれを聞いて感心し、従っていた群衆の方を振り向いて言われた。「言っておくが、イスラエルの中でさえ、わたしはこれほどの信仰を見たことがない。」(10)使いに行った人たちが家に帰ってみると、その部下は元気になっていた。

◆やもめの息子を生き返らせる
(11)それから間もなく、イエスはナインという町に行かれた。弟子たちや大勢の群衆も一緒であった。(12)イエスが町の門に近づかれると、ちょうど、ある母親の一人息子が死んで、棺が担ぎ出されるところだった。その母親はやもめであって、町の人が大勢そばに付き添っていた。(13)主はこの母親を見て、憐れに思い、「もう泣かなくともよい」と言われた。(14)そして、近づいて棺に手を触れられると、担いでいる人たちは立ち止まった。イエスは、「若者よ、あなたに言う。起きなさい」と言われた。(15)すると、死人は起き上がってものを言い始めた。イエスは息子をその母親にお返しになった。(16)人々は皆恐れを抱き、神を賛美して、「大預言者が我々の間に現れた」と言い、また、「神はその民を心にかけてくださった」と言った。(17)イエスについてのこの話は、ユダヤの全土と周りの地方一帯に広まった。

◆洗礼者ヨハネとイエス
(18)ヨハネの弟子たちが、これらすべてのことについてヨハネに知らせた。そこで、ヨハネは弟子の中から二人を呼んで、(19)主のもとに送り、こう言わせた。「来るべき方は、あなたでしょうか。それとも、ほかの方を待たなければなりませんか。」
【新約・116頁】
(20)二人はイエスのもとに来て言った。「わたしたちは洗礼者ヨハネからの使いの者ですが、『来るべき方は、あなたでしょうか。それとも、ほかの方を待たなければなりませんか』とお尋ねするようにとのことです。」(21)そのとき、イエスは病気や苦しみや悪霊に悩んでいる多くの人々をいやし、大勢の盲人を見えるようにしておられた。(22)それで、二人にこうお答えになった。「行って、見聞きしたことをヨハネに伝えなさい。目の見えない人は見え、足の不自由な人は歩き、らい病を患っている人は清くなり、耳の聞こえない人は聞こえ、死者は生き返り、貧しい人は福音を告げ知らされている。(23)わたしにつまずかない人は幸いである。」(24)ヨハネの使いが去ってから、イエスは群衆に向かってヨハネについて話し始められた。「あなたがたは何を見に荒れ野へ行ったのか。風にそよぐ葦か。(25)では、何を見に行ったのか。しなやかな服を着た人か。華やかな衣を着て、ぜいたくに暮らす人なら宮殿にいる。(26)では、何を見に行ったのか。預言者か。そうだ、言っておく。預言者以上の者である。
(27)『見よ、わたしはあなたより先に使者を遣わし、
あなたの前に道を準備させよう』
と書いてあるのは、この人のことだ。(28)言っておくが、およそ女から生まれた者のうち、ヨハネより偉大な者はいない。しかし、神の国で最も小さな者でも、彼よりは偉大である。」(29)民衆は皆ヨハネの教えを聞き、徴税人さえもその洗礼を受け、神の正しさを認めた。(30)しかし、ファリサイ派の人々や律法の専門家たちは、彼から洗礼を受けないで、自分に対する神の御心を拒んだ。
(31)「では、今の時代の人たちは何にたとえたらよいか。彼らは何に似ているか。(32)広場に座って、互いに呼びかけ、こう言っている子供たちに似ている。
『笛を吹いたのに、
踊ってくれなかった。
葬式の歌をうたったのに、
泣いてくれなかった。』
(33)洗礼者ヨハネが来て、パンも食べずぶどう酒も飲まずにいると、あなたがたは、『あれは悪霊に取りつかれている』と言い、(34)人の子が来て、飲み食いすると、『見ろ、大食漢で大酒飲みだ。徴税人や罪人の仲間だ』と言う。(35)しかし、知恵の正しさは、それに従うすべての人によって証明される。」

◆罪深い女を赦す
(36)さて、あるファリサイ派の人が、一緒に食事をしてほしいと願ったので、イエスはその家に入って食事の席に着かれた。
【新約・117頁】
(37)この町に一人の罪深い女がいた。イエスがファリサイ派の人の家に入って食事の席に着いておられるのを知り、香油の入った石膏の壺を持って来て、(38)後ろからイエスの足もとに近寄り、泣きながらその足を涙でぬらし始め、自分の髪の毛でぬぐい、イエスの足に接吻して香油を塗った。(39)イエスを招待したファリサイ派の人はこれを見て、「この人がもし預言者なら、自分に触れている女がだれで、どんな人か分かるはずだ。罪深い女なのに」と思った。(40)そこで、イエスがその人に向かって、「シモン、あなたに言いたいことがある」と言われると、シモンは、「先生、おっしゃってください」と言った。(41)イエスはお話しになった。「ある金貸しから、二人の人が金を借りていた。一人は五百デナリオン、もう一人は五十デナリオンである。(42)二人には返す金がなかったので、金貸しは両方の借金を帳消しにしてやった。二人のうち、どちらが多くその金貸しを愛するだろうか。」(43)シモンは、「帳消しにしてもらった額の多い方だと思います」と答えた。イエスは、「そのとおりだ」と言われた。(44)そして、女の方を振り向いて、シモンに言われた。「この人を見ないか。わたしがあなたの家に入ったとき、あなたは足を洗う水もくれなかったが、この人は涙でわたしの足をぬらし、髪の毛でぬぐってくれた。(45)あなたはわたしに接吻の挨拶もしなかったが、この人はわたしが入って来てから、わたしの足に接吻してやまなかった。(46)あなたは頭にオリーブ油を塗ってくれなかったが、この人は足に香油を塗ってくれた。(47)だから、言っておく。この人が多くの罪を赦されたことは、わたしに示した愛の大きさで分かる。赦されることの少ない者は、愛することも少ない。」(48)そして、イエスは女に、「あなたの罪は赦された」と言われた。(49)同席の人たちは、「罪まで赦すこの人は、いったい何者だろう」と考え始めた。(50)イエスは女に、「あなたの信仰があなたを救った。安心して行きなさい」と言われた。

◆婦人たち、奉仕する

(1)すぐその後、イエスは神の国を宣べ伝え、その福音を告げ知らせながら、町や村を巡って旅を続けられた。十二人も一緒だった。(2)悪霊を追い出して病気をいやしていただいた何人かの婦人たち、すなわち、七つの悪霊を追い出していただいたマグダラの女と呼ばれるマリア、(3)ヘロデの家令クザの妻ヨハナ、それにスサンナ、そのほか多くの婦人たちも一緒であった。彼女たちは、自分の持ち物を出し合って、一行に奉仕していた。

◆「種を蒔く人」のたとえ

【新約・118頁】
(4)大勢の群衆が集まり、方々の町から人々がそばに来たので、イエスはたとえを用いてお話しになった。(5)「種を蒔く人が種蒔きに出て行った。蒔いている間に、ある種は道端に落ち、人に踏みつけられ、空の鳥が食べてしまった。(6)ほかの種は石地に落ち、芽は出たが、水気がないので枯れてしまった。(7)ほかの種は茨の中に落ち、茨も一緒に伸びて、押しかぶさってしまった。(8)また、ほかの種は良い土地に落ち、生え出て、百倍の実を結んだ。」イエスはこのように話して、「聞く耳のある者は聞きなさい」と大声で言われた。

◆たとえを用いて話す理由
(9)弟子たちは、このたとえはどんな意味かと尋ねた。(10)イエスは言われた。「あなたがたには神の国の秘密を悟ることが許されているが、他の人々にはたとえを用いて話すのだ。それは、
『彼らが見ても見えず、
聞いても理解できない』
ようになるためである。」

◆「種を蒔く人」のたとえの説明
(11)「このたとえの意味はこうである。種は神の言葉である。(12)道端のものとは、御言葉を聞くが、信じて救われることのないように、後から悪魔が来て、その心から御言葉を奪い去る人たちである。(13)石地のものとは、御言葉を聞くと喜んで受け入れるが、根がないので、しばらくは信じても、試練に遭うと身を引いてしまう人たちのことである。(14)そして、茨の中に落ちたのは、御言葉を聞くが、途中で人生の思い煩いや富や快楽に覆いふさがれて、実が熟するまでに至らない人たちである。(15)良い土地に落ちたのは、立派な善い心で御言葉を聞き、よく守り、忍耐して実を結ぶ人たちである。」

◆「ともし火」のたとえ
(16)「ともし火をともして、それを器で覆い隠したり、寝台の下に置いたりする人はいない。入って来る人に光が見えるように、燭台の上に置く。(17)隠れているもので、あらわにならないものはなく、秘められたもので、人に知られず、公にならないものはない。(18)だから、どう聞くべきかに注意しなさい。持っている人は更に与えられ、持っていない人は持っていると思うものまでも取り上げられる。」

◆イエスの母、兄弟

【新約・119頁】
(19)さて、イエスのところに母と兄弟たちが来たが、群衆のために近づくことができなかった。(20)そこでイエスに、「母上と御兄弟たちが、お会いしたいと外に立っておられます」との知らせがあった。(21)するとイエスは、「わたしの母、わたしの兄弟とは、神の言葉を聞いて行う人たちのことである」とお答えになった。

◆突風を静める
(22)ある日のこと、イエスが弟子たちと一緒に舟に乗り、「湖の向こう岸に渡ろう」と言われたので、船出した。(23)渡って行くうちに、イエスは眠ってしまわれた。突風が湖に吹き降ろして来て、彼らは水をかぶり、危なくなった。(24)弟子たちは近寄ってイエスを起こし、「先生、先生、おぼれそうです」と言った。イエスが起き上がって、風と荒波とをお叱りになると、静まって凪になった。(25)イエスは、「あなたがたの信仰はどこにあるのか」と言われた。弟子たちは恐れ驚いて、「いったい、この方はどなたなのだろう。命じれば風も波も従うではないか」と互いに言った。

◆悪霊に取りつかれたゲラサの人をいやす
(26)一行は、ガリラヤの向こう岸にあるゲラサ人の地方に着いた。(27)イエスが陸に上がられると、この町の者で、悪霊に取りつかれている男がやって来た。この男は長い間、衣服を身に着けず、家に住まないで墓場を住まいとしていた。(28)イエスを見ると、わめきながらひれ伏し、大声で言った。「いと高き神の子イエス、かまわないでくれ。頼むから苦しめないでほしい。」(29)イエスが、汚れた霊に男から出るように命じられたからである。この人は何回も汚れた霊に取りつかれたので、鎖でつながれ、足枷をはめられて監視されていたが、それを引きちぎっては、悪霊によって荒れ野へと駆り立てられていた。(30)イエスが、「名は何というか」とお尋ねになると、「レギオン」と言った。たくさんの悪霊がこの男に入っていたからである。(31)そして悪霊どもは、底なしの淵へ行けという命令を自分たちに出さないようにと、イエスに願った。
(32)ところで、その辺りの山で、たくさんの豚の群れがえさをあさっていた。悪霊どもが豚の中に入る許しを願うと、イエスはお許しになった。(33)悪霊どもはその人から出て、豚の中に入った。すると、豚の群れは崖を下って湖になだれ込み、おぼれ死んだ。
【新約・120頁】
(34)この出来事を見た豚飼いたちは逃げ出し、町や村にこのことを知らせた。(35)そこで、人々はその出来事を見ようとしてやって来た。彼らはイエスのところに来ると、悪霊どもを追い出してもらった人が、服を着、正気になってイエスの足もとに座っているのを見て、恐ろしくなった。(36)成り行きを見ていた人たちは、悪霊に取りつかれていた人の救われた次第を人々に知らせた。(37)そこで、ゲラサ地方の人々は皆、自分たちのところから出て行ってもらいたいと、イエスに願った。彼らはすっかり恐れに取りつかれていたのである。そこで、イエスは舟に乗って帰ろうとされた。(38)悪霊どもを追い出してもらった人が、お供したいとしきりに願ったが、イエスはこう言ってお帰しになった。(39)「自分の家に帰りなさい。そして、神があなたになさったことをことごとく話して聞かせなさい。」その人は立ち去り、イエスが自分にしてくださったことをことごとく町中に言い広めた。

◆ヤイロの娘とイエスの服に触れる女
(40)イエスが帰って来られると、群衆は喜んで迎えた。人々は皆、イエスを待っていたからである。(41)そこへ、ヤイロという人が来た。この人は会堂長であった。彼はイエスの足もとにひれ伏して、自分の家に来てくださるようにと願った。(42)十二歳ぐらいの一人娘がいたが、死にかけていたのである。
イエスがそこに行かれる途中、群衆が周りに押し寄せて来た。(43)ときに、十二年このかた出血が止まらず、医者に全財産を使い果たしたが、だれからも治してもらえない女がいた。(44)この女が近寄って来て、後ろからイエスの服の房に触れると、直ちに出血が止まった。(45)イエスは、「わたしに触れたのはだれか」と言われた。人々は皆、自分ではないと答えたので、ペトロが、「先生、群衆があなたを取り巻いて、押し合っているのです」と言った。(46)しかし、イエスは、「だれかがわたしに触れた。わたしから力が出て行ったのを感じたのだ」と言われた。(47)女は隠しきれないと知って、震えながら進み出てひれ伏し、触れた理由とたちまちいやされた次第とを皆の前で話した。(48)イエスは言われた。「娘よ、あなたの信仰があなたを救った。安心して行きなさい。」
(49)イエスがまだ話しておられるときに、会堂長の家から人が来て言った。「お嬢さんは亡くなりました。この上、先生を煩わすことはありません。」(50)イエスは、これを聞いて会堂長に言われた。「恐れることはない。ただ信じなさい。そうすれば、娘は救われる。」
【新約・121頁】
(51)イエスはその家に着くと、ペトロ、ヨハネ、ヤコブ、それに娘の父母のほかには、だれも一緒に入ることをお許しにならなかった。(52)人々は皆、娘のために泣き悲しんでいた。そこで、イエスは言われた。「泣くな。死んだのではない。眠っているのだ。」(53)人々は、娘が死んだことを知っていたので、イエスをあざ笑った。(54)イエスは娘の手を取り、「娘よ、起きなさい」と呼びかけられた。(55)すると娘は、その霊が戻って、すぐに起き上がった。イエスは、娘に食べ物を与えるように指図をされた。(56)娘の両親は非常に驚いた。イエスは、この出来事をだれにも話さないようにとお命じになった。

◆十二人を派遣する

(1)イエスは十二人を呼び集め、あらゆる悪霊に打ち勝ち、病気をいやす力と権能をお授けになった。(2)そして、神の国を宣べ伝え、病人をいやすために遣わすにあたり、(3)次のように言われた。「旅には何も持って行ってはならない。杖も袋もパンも金も持ってはならない。下着も二枚は持ってはならない。(4)どこかの家に入ったら、そこにとどまって、その家から旅立ちなさい。(5)だれもあなたがたを迎え入れないなら、その町を出ていくとき、彼らへの証しとして足についた埃を払い落としなさい。」(6)十二人は出かけて行き、村から村へと巡り歩きながら、至るところで福音を告げ知らせ、病気をいやした。

◆ヘロデ、戸惑う
(7)ところで、領主ヘロデは、これらの出来事をすべて聞いて戸惑った。というのは、イエスについて、「ヨハネが死者の中から生き返ったのだ」と言う人もいれば、(8)「エリヤが現れたのだ」と言う人もいて、更に、「だれか昔の預言者が生き返ったのだ」と言う人もいたからである。(9)しかし、ヘロデは言った。「ヨハネなら、わたしが首をはねた。いったい、何者だろう。耳に入ってくるこんなうわさの主は。」そして、イエスに会ってみたいと思った。

◆五千人に食べ物を与える
(10)使徒たちは帰って来て、自分たちの行ったことをみなイエスに告げた。イエスは彼らを連れ、自分たちだけでベトサイダという町に退かれた。(11)群衆はそのことを知ってイエスの後を追った。イエスはこの人々を迎え、神の国について語り、治療の必要な人々をいやしておられた。
【新約・122頁】
(12)日が傾きかけたので、十二人はそばに来てイエスに言った。「群衆を解散させてください。そうすれば、周りの村や里へ行って宿をとり、食べ物を見つけるでしょう。わたしたちはこんな人里離れた所にいるのです。」(13)しかし、イエスは言われた。「あなたがたが彼らに食べ物を与えなさい。」彼らは言った。「わたしたちにはパン五つと魚二匹しかありません、このすべての人々のために、わたしたちが食べ物を買いに行かないかぎり。」(14)というのは、男が五千人ほどいたからである。イエスは弟子たちに、「人々を五十人ぐらいずつ組にして座らせなさい」と言われた。(15)弟子たちは、そのようにして皆を座らせた。(16)すると、イエスは五つのパンと二匹の魚を取り、天を仰いで、それらのために賛美の祈りを唱え、裂いて弟子たちに渡しては群衆に配らせた。(17)すべての人が食べて満腹した。そして、残ったパンの屑を集めると、十二籠もあった。

◆ペトロ、信仰を言い表す
(18)イエスがひとりで祈っておられたとき、弟子たちは共にいた。そこでイエスは、「群衆は、わたしのことを何者だと言っているか」とお尋ねになった。(19)弟子たちは答えた。「『洗礼者ヨハネだ』と言っています。ほかに、『エリヤだ』と言う人も、『だれか昔の預言者が生き返ったのだ』と言う人もいます。」(20)イエスが言われた。「それでは、あなたがたはわたしを何者だと言うのか。」ペトロが答えた。「神からのメシアです。」

◆イエス、死と復活を予告する
(21)イエスは弟子たちを戒め、このことをだれにも話さないように命じて、(22)次のように言われた。「人の子は必ず多くの苦しみを受け、長老、祭司長、律法学者たちから排斥されて殺され、三日目に復活することになっている。」(23)それから、イエスは皆に言われた。「わたしについて来たい者は、自分を捨て、日々、自分の十字架を背負って、わたしに従いなさい。(24)自分の命を救いたいと思う者は、それを失うが、わたしのために命を失う者は、それを救うのである。(25)人は、たとえ全世界を手に入れても、自分の身を滅ぼしたり、失ったりしては、何の得があろうか。(26)わたしとわたしの言葉を恥じる者は、人の子も、自分と父と聖なる天使たちとの栄光に輝いて来るときに、その者を恥じる。(27)確かに言っておく。ここに一緒にいる人々の中には、神の国を見るまでは決して死なない者がいる。」

◆イエスの姿が変わる

【新約・123頁】
(28)この話をしてから八日ほどたったとき、イエスは、ペトロ、ヨハネ、およびヤコブを連れて、祈るために山に登られた。(29)祈っておられるうちに、イエスの顔の様子が変わり、服は真っ白に輝いた。(30)見ると、二人の人がイエスと語り合っていた。モーセとエリヤである。(31)二人は栄光に包まれて現れ、イエスがエルサレムで遂げようとしておられる最期について話していた。(32)ペトロと仲間は、ひどく眠かったが、じっとこらえていると、栄光に輝くイエスと、そばに立っている二人の人が見えた。(33)その二人がイエスから離れようとしたとき、ペトロがイエスに言った。「先生、わたしたちがここにいるのは、すばらしいことです。仮小屋を三つ建てましょう。一つはあなたのため、一つはモーセのため、もう一つはエリヤのためです。」ペトロは、自分でも何を言っているのか、分からなかったのである。(34)ペトロがこう言っていると、雲が現れて彼らを覆った。彼らが雲の中に包まれていくので、弟子たちは恐れた。(35)すると、「これはわたしの子、選ばれた者。これに聞け」と言う声が雲の中から聞こえた。(36)その声がしたとき、そこにはイエスだけがおられた。弟子たちは沈黙を守り、見たことを当時だれにも話さなかった。

◆悪霊に取りつかれた子をいやす
(37)翌日、一同が山を下りると、大勢の群衆がイエスを出迎えた。(38)そのとき、一人の男が群衆の中から大声で言った。「先生、どうかわたしの子を見てやってください。一人息子です。(39)悪霊が取りつくと、この子は突然叫びだします。悪霊はこの子にけいれんを起こさせて泡を吹かせ、さんざん苦しめて、なかなか離れません。(40)この霊を追い出してくださるようにお弟子たちに頼みましたが、できませんでした。」(41)イエスはお答えになった。「なんと信仰のない、よこしまな時代なのか。いつまでわたしは、あなたがたと共にいて、あなたがたに我慢しなければならないのか。あなたの子供をここに連れて来なさい。」(42)その子が来る途中でも、悪霊は投げ倒し、引きつけさせた。イエスは汚れた霊を叱り、子供をいやして父親にお返しになった。(43)人々は皆、神の偉大さに心を打たれた。

◆再び自分の死を予告する
イエスがなさったすべてのことに、皆が驚いていると、イエスは弟子たちに言われた。
【新約・124頁】
(44)「この言葉をよく耳に入れておきなさい。人の子は人々の手に引き渡されようとしている。」(45)弟子たちはその言葉が分からなかった。彼らには理解できないように隠されていたのである。彼らは、怖くてその言葉について尋ねられなかった。

◆いちばん偉い者
(46)弟子たちの間で、自分たちのうちだれがいちばん偉いかという議論が起きた。(47)イエスは彼らの心の内を見抜き、一人の子供の手を取り、御自分のそばに立たせて、(48)言われた。「わたしの名のためにこの子供を受け入れる者は、わたしを受け入れるのである。わたしを受け入れる者は、わたしをお遣わしになった方を受け入れるのである。あなたがた皆の中で最も小さい者こそ、最も偉い者である。」

◆逆らわない者は味方
(49)そこで、ヨハネが言った。「先生、お名前を使って悪霊を追い出している者を見ましたが、わたしたちと一緒にあなたに従わないので、やめさせようとしました。」(50)イエスは言われた。「やめさせてはならない。あなたがたに逆らわない者は、あなたがたの味方なのである。」

◆サマリア人から歓迎されない
(51)イエスは、天に上げられる時期が近づくと、エルサレムに向かう決意を固められた。(52)そして、先に使いの者を出された。彼らは行って、イエスのために準備しようと、サマリア人の村に入った。(53)しかし、村人はイエスを歓迎しなかった。イエスがエルサレムを目指して進んでおられたからである。(54)弟子のヤコブとヨハネはそれを見て、「主よ、お望みなら、天から火を降らせて、彼らを焼き滅ぼしましょうか」と言った。(55)イエスは振り向いて二人を戒められた。(56)そして、一行は別の村に行った。

◆弟子の覚悟
(57)一行が道を進んで行くと、イエスに対して、「あなたがおいでになる所なら、どこへでも従って参ります」と言う人がいた。(58)イエスは言われた。「狐には穴があり、空の鳥には巣がある。だが、人の子には枕する所もない。」(59)そして別の人に、「わたしに従いなさい」と言われたが、その人は、「主よ、まず、父を葬りに行かせてください」と言った。(60)イエスは言われた。「死んでいる者たちに、自分たちの死者を葬らせなさい。あなたは行って、神の国を言い広めなさい。」
【新約・125頁】
(61)また、別の人も言った。「主よ、あなたに従います。しかし、まず家族にいとまごいに行かせてください。」(62)イエスはその人に、「鋤に手をかけてから後ろを顧みる者は、神の国にふさわしくない」と言われた。

◆七十二人を派遣する
10
(1)その後、主はほかに七十二人を任命し、御自分が行くつもりのすべての町や村に二人ずつ先に遣わされた。(2)そして、彼らに言われた。「収穫は多いが、働き手が少ない。だから、収穫のために働き手を送ってくださるように、収穫の主に願いなさい。(3)行きなさい。わたしはあなたがたを遣わす。それは、狼の群れに小羊を送り込むようなものだ。(4)財布も袋も履物も持って行くな。途中でだれにも挨拶をするな。(5)どこかの家に入ったら、まず、『この家に平和があるように』と言いなさい。(6)平和の子がそこにいるなら、あなたがたの願う平和はその人にとどまる。もし、いなければ、その平和はあなたがたに戻ってくる。(7)その家に泊まって、そこで出される物を食べ、また飲みなさい。働く者が報酬を受けるのは当然だからである。家から家へと渡り歩くな。(8)どこかの町に入り、迎え入れられたら、出される物を食べ、(9)その町の病人をいやし、また、『神の国はあなたがたに近づいた』と言いなさい。(10)しかし、町に入っても、迎え入れられなければ、広場に出てこう言いなさい。(11)『足についたこの町の埃さえも払い落として、あなたがたに返す。しかし、神の国が近づいたことを知れ』と。(12)言っておくが、かの日には、その町よりまだソドムの方が軽い罰で済む。」

◆悔い改めない町を叱る
(13)「コラジン、お前は不幸だ。ベトサイダ、お前は不幸だ。お前たちのところでなされた奇跡がティルスやシドンで行われていれば、これらの町はとうの昔に粗布をまとい、灰の中に座って悔い改めたにちがいない。(14)しかし、裁きの時には、お前たちよりまだティルスやシドンの方が軽い罰で済む。(15)また、カファルナウム、お前は、
天にまで上げられるとでも思っているのか。
陰府にまで落とされるのだ。
(16)あなたがたに耳を傾ける者は、わたしに耳を傾け、あなたがたを拒む者は、わたしを拒むのである。わたしを拒む者は、わたしを遣わされた方を拒むのである。」

◆七十二人、帰って来る

【新約・126頁】
(17)七十二人は喜んで帰って来て、こう言った。「主よ、お名前を使うと、悪霊さえもわたしたちに屈服します。」(18)イエスは言われた。「わたしは、サタンが稲妻のように天から落ちるのを見ていた。(19)蛇やさそりを踏みつけ、敵のあらゆる力に打ち勝つ権威を、わたしはあなたがたに授けた。だから、あなたがたに害を加えるものは何一つない。(20)しかし、悪霊があなたがたに服従するからといって、喜んではならない。むしろ、あなたがたの名が天に書き記されていることを喜びなさい。」

◆喜びにあふれる
(21)そのとき、イエスは聖霊によって喜びにあふれて言われた。「天地の主である父よ、あなたをほめたたえます。これらのことを知恵ある者や賢い者には隠して、幼子のような者にお示しになりました。そうです、父よ、これは御心に適うことでした。(22)すべてのことは、父からわたしに任せられています。父のほかに、子がどういう者であるかを知る者はなく、父がどういう方であるかを知る者は、子と、子が示そうと思う者のほかには、だれもいません。」(23)それから、イエスは弟子たちの方を振り向いて、彼らだけに言われた。「あなたがたの見ているものを見る目は幸いだ。(24)言っておくが、多くの預言者や王たちは、あなたがたが見ているものを見たかったが、見ることができず、あなたがたが聞いているものを聞きたかったが、聞けなかったのである。」

◆善いサマリア人
(25)すると、ある律法の専門家が立ち上がり、イエスを試そうとして言った。「先生、何をしたら、永遠の命を受け継ぐことができるでしょうか。」(26)イエスが、「律法には何と書いてあるか。あなたはそれをどう読んでいるか」と言われると、(27)彼は答えた。「『心を尽くし、精神を尽くし、力を尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい、また、隣人を自分のように愛しなさい』とあります。」(28)イエスは言われた。「正しい答えだ。それを実行しなさい。そうすれば命が得られる。」(29)しかし、彼は自分を正当化しようとして、「では、わたしの隣人とはだれですか」と言った。(30)イエスはお答えになった。「ある人がエルサレムからエリコへ下って行く途中、追いはぎに襲われた。追いはぎはその人の服をはぎ取り、殴りつけ、半殺しにしたまま立ち去った。(31)ある祭司がたまたまその道を下って来たが、その人を見ると、道の向こう側を通って行った。
【新約・127頁】
(32)同じように、レビ人もその場所にやって来たが、その人を見ると、道の向こう側を通って行った。(33)ところが、旅をしていたあるサマリア人は、そばに来ると、その人を見て憐れに思い、(34)近寄って傷に油とぶどう酒を注ぎ、包帯をして、自分のろばに乗せ、宿屋に連れて行って介抱した。(35)そして、翌日になると、デナリオン銀貨二枚を取り出し、宿屋の主人に渡して言った。『この人を介抱してください。費用がもっとかかったら、帰りがけに払います。』(36)さて、あなたはこの三人の中で、だれが追いはぎに襲われた人の隣人になったと思うか。」(37)律法の専門家は言った。「その人を助けた人です。」そこで、イエスは言われた。「行って、あなたも同じようにしなさい。」

◆マルタとマリア
(38)一行が歩いて行くうち、イエスはある村にお入りになった。すると、マルタという女が、イエスを家に迎え入れた。(39)彼女にはマリアという姉妹がいた。マリアは主の足もとに座って、その話に聞き入っていた。(40)マルタは、いろいろのもてなしのためせわしく立ち働いていたが、そばに近寄って言った。「主よ、わたしの姉妹はわたしだけにもてなしをさせていますが、何ともお思いになりませんか。手伝ってくれるようにおっしゃってください。」(41)主はお答えになった。「マルタ、マルタ、あなたは多くのことに思い悩み、心を乱している。(42)しかし、必要なことはただ一つだけである。マリアは良い方を選んだ。それを取り上げてはならない。」

◆祈るときには
11
(1)イエスはある所で祈っておられた。祈りが終わると、弟子の一人がイエスに、「主よ、ヨハネが弟子たちに教えたように、わたしたちにも祈りを教えてください」と言った。(2)そこで、イエスは言われた。「祈るときには、こう言いなさい。
『父よ、
御名が崇められますように。
御国が来ますように。
(3)わたしたちに必要な糧を毎日与えてください。
(4)わたしたちの罪を赦してください、
わたしたちも自分に負い目のある人を
皆赦しますから。
わたしたちを誘惑に遭わせないでください。』」
(5)また、弟子たちに言われた。「あなたがたのうちのだれかに友達がいて、真夜中にその人のところに行き、次のように言ったとしよう。『友よ、パンを三つ貸してください。
【新約・128頁】
(6)旅行中の友達がわたしのところに立ち寄ったが、何も出すものがないのです。』(7)すると、その人は家の中から答えるにちがいない。『面倒をかけないでください。もう戸は閉めたし、子供たちはわたしのそばで寝ています。起きてあなたに何かをあげるわけにはいきません。』(8)しかし、言っておく。その人は、友達だからということでは起きて何か与えるようなことはなくても、しつように頼めば、起きて来て必要なものは何でも与えるであろう。(9)そこで、わたしは言っておく。求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば、見つかる。門をたたきなさい。そうすれば、開かれる。(10)だれでも、求める者は受け、探す者は見つけ、門をたたく者には開かれる。(11)あなたがたの中に、魚を欲しがる子供に、魚の代わりに蛇を与える父親がいるだろうか。(12)また、卵を欲しがるのに、さそりを与える父親がいるだろうか。(13)このように、あなたがたは悪い者でありながらも、自分の子供には良い物を与えることを知っている。まして天の父は求める者に聖霊を与えてくださる。」

◆ベルゼブル論争
(14)イエスは悪霊を追い出しておられたが、それは口を利けなくする悪霊であった。悪霊が出て行くと、口の利けない人がものを言い始めたので、群衆は驚嘆した。(15)しかし、中には、「あの男は悪霊の頭ベルゼブルの力で悪霊を追い出している」と言う者や、(16)イエスを試そうとして、天からのしるしを求める者がいた。(17)しかし、イエスは彼らの心を見抜いて言われた。「内輪で争えば、どんな国でも荒れ果て、家は重なり合って倒れてしまう。(18)あなたたちは、わたしがベルゼブルの力で悪霊を追い出していると言うけれども、サタンが内輪もめすれば、どうしてその国は成り立って行くだろうか。(19)わたしがベルゼブルの力で悪霊を追い出すのなら、あなたたちの仲間は何の力で追い出すのか。だから、彼ら自身があなたたちを裁く者となる。(20)しかし、わたしが神の指で悪霊を追い出しているのであれば、神の国はあなたたちのところに来ているのだ。(21)強い人が武装して自分の屋敷を守っているときには、その持ち物は安全である。(22)しかし、もっと強い者が襲って来てこの人に勝つと、頼みの武具をすべて奪い取り、分捕り品を分配する。(23)わたしに味方しない者はわたしに敵対し、わたしと一緒に集めない者は散らしている。」

◆汚れた霊が戻って来る

【新約・129頁】
(24)「汚れた霊は、人から出て行くと、砂漠をうろつき、休む場所を探すが、見つからない。それで、『出て来たわが家に戻ろう』と言う。(25)そして、戻ってみると、家は掃除をして、整えられていた。(26)そこで、出かけて行き、自分よりも悪いほかの七つの霊を連れて来て、中に入り込んで、住み着く。そうなると、その人の後の状態は前よりも悪くなる。」

◆真の幸い
(27)イエスがこれらのことを話しておられると、ある女が群衆の中から声高らかに言った。「なんと幸いなことでしょう、あなたを宿した胎、あなたが吸った乳房は。」(28)しかし、イエスは言われた。「むしろ、幸いなのは神の言葉を聞き、それを守る人である。」

◆人々はしるしを欲しがる
(29)群衆の数がますます増えてきたので、イエスは話し始められた。「今の時代の者たちはよこしまだ。しるしを欲しがるが、ヨナのしるしのほかには、しるしは与えられない。(30)つまり、ヨナがニネベの人々に対してしるしとなったように、人の子も今の時代の者たちに対してしるしとなる。(31)南の国の女王は、裁きの時、今の時代の者たちと一緒に立ち上がり、彼らを罪に定めるであろう。この女王はソロモンの知恵を聞くために、地の果てから来たからである。ここに、ソロモンにまさるものがある。(32)また、ニネベの人々は裁きの時、今の時代の者たちと一緒に立ち上がり、彼らを罪に定めるであろう。ニネベの人々は、ヨナの説教を聞いて悔い改めたからである。ここに、ヨナにまさるものがある。」

◆体のともし火は目
(33)「ともし火をともして、それを穴蔵の中や、升の下に置く者はいない。入って来る人に光が見えるように、燭台の上に置く。(34)あなたの体のともし火は目である。目が澄んでいれば、あなたの全身が明るいが、濁っていれば、体も暗い。(35)だから、あなたの中にある光が消えていないか調べなさい。(36)あなたの全身が明るく、少しも暗いところがなければ、ちょうど、ともし火がその輝きであなたを照らすときのように、全身は輝いている。」

◆ファリサイ派の人々と律法の専門家とを非難する

【新約・130頁】
(37)イエスはこのように話しておられたとき、ファリサイ派の人から食事の招待を受けたので、その家に入って食事の席に着かれた。(38)ところがその人は、イエスが食事の前にまず身を清められなかったのを見て、不審に思った。(39)主は言われた。「実に、あなたたちファリサイ派の人々は、杯や皿の外側はきれいにするが、自分の内側は強欲と悪意に満ちている。(40)愚かな者たち、外側を造られた神は、内側もお造りになったではないか。(41)ただ、器の中にある物を人に施せ。そうすれば、あなたたちにはすべてのものが清くなる。(42)それにしても、あなたたちファリサイ派の人々は不幸だ。薄荷や芸香やあらゆる野菜の十分の一は献げるが、正義の実行と神への愛はおろそかにしているからだ。これこそ行うべきことである。もとより、十分の一の献げ物もおろそかにしてはならないが。(43)あなたたちファリサイ派の人々は不幸だ。会堂では上席に着くこと、広場では挨拶されることを好むからだ。(44)あなたたちは不幸だ。人目につかない墓のようなものである。その上を歩く人は気づかない。」
(45)そこで、律法の専門家の一人が、「先生、そんなことをおっしゃれば、わたしたちをも侮辱することになります」と言った。(46)イエスは言われた。「あなたたち律法の専門家も不幸だ。人には背負いきれない重荷を負わせながら、自分では指一本もその重荷に触れようとしないからだ。(47)あなたたちは不幸だ。自分の先祖が殺した預言者たちの墓を建てているからだ。(48)こうして、あなたたちは先祖の仕業の証人となり、それに賛成している。先祖は殺し、あなたたちは墓を建てているからである。(49)だから、神の知恵もこう言っている。『わたしは預言者や使徒たちを遣わすが、人々はその中のある者を殺し、ある者を迫害する。』(50)こうして、天地創造の時から流されたすべての預言者の血について、今の時代の者たちが責任を問われることになる。(51)それは、アベルの血から、祭壇と聖所の間で殺されたゼカルヤの血にまで及ぶ。そうだ。言っておくが、今の時代の者たちはその責任を問われる。(52)あなたたち律法の専門家は不幸だ。知識の鍵を取り上げ、自分が入らないばかりか、入ろうとする人々をも妨げてきたからだ。」(53)イエスがそこを出て行かれると、律法学者やファリサイ派の人々は激しい敵意を抱き、いろいろの問題でイエスに質問を浴びせ始め、(54)何か言葉じりをとらえようとねらっていた。

◆偽善に気をつけさせる
12

【新約・131頁】
(1)とかくするうちに、数えきれないほどの群衆が集まって来て、足を踏み合うほどになった。イエスは、まず弟子たちに話し始められた。「ファリサイ派の人々のパン種に注意しなさい。それは偽善である。(2)覆われているもので現されないものはなく、隠されているもので知られずに済むものはない。(3)だから、あなたがたが暗闇で言ったことはみな、明るみで聞かれ、奥の間で耳にささやいたことは、屋根の上で言い広められる。」

◆恐るべき者
(4)「友人であるあなたがたに言っておく。体を殺しても、その後、それ以上何もできない者どもを恐れてはならない。(5)だれを恐れるべきか、教えよう。それは、殺した後で、地獄に投げ込む権威を持っている方だ。そうだ。言っておくが、この方を恐れなさい。(6)五羽の雀が二アサリオンで売られているではないか。だが、その一羽さえ、神がお忘れになるようなことはない。(7)それどころか、あなたがたの髪の毛までも一本残らず数えられている。恐れるな。あなたがたは、たくさんの雀よりもはるかにまさっている。」

◆イエスの仲間であると言い表す
(8)「言っておくが、だれでも人々の前で自分をわたしの仲間であると言い表す者は、人の子も神の天使たちの前で、その人を自分の仲間であると言い表す。(9)しかし、人々の前でわたしを知らないと言う者は、神の天使たちの前で知らないと言われる。(10)人の子の悪口を言う者は皆赦される。しかし、聖霊を冒涜する者は赦されない。(11)会堂や役人、権力者のところに連れて行かれたときは、何をどう言い訳しようか、何を言おうかなどと心配してはならない。(12)言うべきことは、聖霊がそのときに教えてくださる。」

◆「愚かな金持ち」のたとえ
(13)群衆の一人が言った。「先生、わたしにも遺産を分けてくれるように兄弟に言ってください。」(14)イエスはその人に言われた。「だれがわたしを、あなたがたの裁判官や調停人に任命したのか。」(15)そして、一同に言われた。「どんな貪欲にも注意を払い、用心しなさい。有り余るほど物を持っていても、人の命は財産によってどうすることもできないからである。」(16)それから、イエスはたとえを話された。「ある金持ちの畑が豊作だった。(17)金持ちは、『どうしよう。作物をしまっておく場所がない』と思い巡らしたが、
【新約・132頁】
(18)やがて言った。『こうしよう。倉を壊して、もっと大きいのを建て、そこに穀物や財産をみなしまい、(19)こう自分に言ってやるのだ。「さあ、これから先何年も生きて行くだけの蓄えができたぞ。ひと休みして、食べたり飲んだりして楽しめ」と。』(20)しかし神は、『愚かな者よ、今夜、お前の命は取り上げられる。お前が用意した物は、いったいだれのものになるのか』と言われた。(21)自分のために富を積んでも、神の前に豊かにならない者はこのとおりだ。」

◆思い悩むな
(22)それから、イエスは弟子たちに言われた。「だから、言っておく。命のことで何を食べようか、体のことで何を着ようかと思い悩むな。(23)命は食べ物よりも大切であり、体は衣服よりも大切だ。(24)烏のことを考えてみなさい。種も蒔かず、刈り入れもせず、納屋も倉も持たない。だが、神は烏を養ってくださる。あなたがたは、鳥よりもどれほど価値があることか。(25)あなたがたのうちのだれが、思い悩んだからといって、寿命をわずかでも延ばすことができようか。(26)こんなごく小さな事さえできないのに、なぜ、ほかの事まで思い悩むのか。(27)野原の花がどのように育つかを考えてみなさい。働きもせず紡ぎもしない。しかし、言っておく。栄華を極めたソロモンでさえ、この花の一つほどにも着飾ってはいなかった。(28)今日は野にあって、明日は炉に投げ込まれる草でさえ、神はこのように装ってくださる。まして、あなたがたにはなおさらのことである。信仰の薄い者たちよ。(29)あなたがたも、何を食べようか、何を飲もうかと考えてはならない。また、思い悩むな。(30)それはみな、世の異邦人が切に求めているものだ。あなたがたの父は、これらのものがあなたがたに必要なことをご存じである。(31)ただ、神の国を求めなさい。そうすれば、これらのものは加えて与えられる。(32)小さな群れよ、恐れるな。あなたがたの父は喜んで神の国をくださる。(33)自分の持ち物を売り払って施しなさい。擦り切れることのない財布を作り、尽きることのない富を天に積みなさい。そこは、盗人も近寄らず、虫も食い荒らさない。(34)あなたがたの富のあるところに、あなたがたの心もあるのだ。」

◆目を覚ましている僕
(35)「腰に帯を締め、ともし火をともしていなさい。(36)主人が婚宴から帰って来て戸をたたくとき、すぐに開けようと待っている人のようにしていなさい。(37)主人が帰って来たとき、目を覚ましているのを見られる僕たちは幸いだ。はっきり言っておくが、主人は帯を締めて、この僕たちを食事の席に着かせ、そばに来て給仕してくれる。
【新約・133頁】
(38)主人が真夜中に帰っても、夜明けに帰っても、目を覚ましているのを見られる僕たちは幸いだ。(39)このことをわきまえていなさい。家の主人は、泥棒がいつやって来るかを知っていたら、自分の家に押し入らせはしないだろう。(40)あなたがたも用意していなさい。人の子は思いがけない時に来るからである。」
(41)そこでペトロが、「主よ、このたとえはわたしたちのために話しておられるのですか。それとも、みんなのためですか」と言うと、(42)主は言われた。「主人が召し使いたちの上に立てて、時間どおりに食べ物を分配させることにした忠実で賢い管理人は、いったいだれであろうか。(43)主人が帰って来たとき、言われたとおりにしているのを見られる僕は幸いである。(44)確かに言っておくが、主人は彼に全財産を管理させるにちがいない。(45)しかし、もしその僕が、主人の帰りは遅れると思い、下男や女中を殴ったり、食べたり飲んだり、酔うようなことになるならば、(46)その僕の主人は予想しない日、思いがけない時に帰って来て、彼を厳しく罰し、不忠実な者たちと同じ目に遭わせる。(47)主人の思いを知りながら何も準備せず、あるいは主人の思いどおりにしなかった僕は、ひどく鞭打たれる。(48)しかし、知らずにいて鞭打たれるようなことをした者は、打たれても少しで済む。すべて多く与えられた者は、多く求められ、多く任された者は、更に多く要求される。」

◆分裂をもたらす
(49)「わたしが来たのは、地上に火を投ずるためである。その火が既に燃えていたらと、どんなに願っていることか。(50)しかし、わたしには受けねばならない洗礼がある。それが終わるまで、わたしはどんなに苦しむことだろう。(51)あなたがたは、わたしが地上に平和をもたらすために来たと思うのか。そうではない。言っておくが、むしろ分裂だ。(52)今から後、一つの家に五人いるならば、三人は二人と、二人は三人と対立して分かれるからである。
(53)父は子と、子は父と、
母は娘と、娘は母と、
しゅうとめは嫁と、嫁はしゅうとめと、
対立して分かれる。」

◆時を見分ける

【新約・134頁】
(54)イエスはまた群衆にも言われた。「あなたがたは、雲が西に出るのを見るとすぐに、『にわか雨になる』と言う。実際そのとおりになる。(55)また、南風が吹いているのを見ると、『暑くなる』と言う。事実そうなる。(56)偽善者よ、このように空や地の模様を見分けることは知っているのに、どうして今の時を見分けることを知らないのか。」

◆訴える人と仲直りする
(57)「あなたがたは、何が正しいかを、どうして自分で判断しないのか。(58)あなたを訴える人と一緒に役人のところに行くときには、途中でその人と仲直りするように努めなさい。さもないと、その人はあなたを裁判官のもとに連れて行き、裁判官は看守に引き渡し、看守は牢に投げ込む。(59)言っておくが、最後の一レプトンを返すまで、決してそこから出ることはできない。」

◆悔い改めなければ滅びる
13
(1)ちょうどそのとき、何人かの人が来て、ピラトがガリラヤ人の血を彼らのいけにえに混ぜたことをイエスに告げた。(2)イエスはお答えになった。「そのガリラヤ人たちがそのような災難に遭ったのは、ほかのどのガリラヤ人よりも罪深い者だったからだと思うのか。(3)決してそうではない。言っておくが、あなたがたも悔い改めなければ、皆同じように滅びる。(4)また、シロアムの塔が倒れて死んだあの十八人は、エルサレムに住んでいたほかのどの人々よりも、罪深い者だったと思うのか。(5)決してそうではない。言っておくが、あなたがたも悔い改めなければ、皆同じように滅びる。」

◆「実のならないいちじくの木」のたとえ
(6)そして、イエスは次のたとえを話された。「ある人がぶどう園にいちじくの木を植えておき、実を探しに来たが見つからなかった。(7)そこで、園丁に言った。『もう三年もの間、このいちじくの木に実を探しに来ているのに、見つけたためしがない。だから切り倒せ。なぜ、土地をふさがせておくのか。』(8)園丁は答えた。『御主人様、今年もこのままにしておいてください。木の周りを掘って、肥やしをやってみます。(9)そうすれば、来年は実がなるかもしれません。もしそれでもだめなら、切り倒してください。』」

◆安息日に、腰の曲がった婦人をいやす
(10)安息日に、イエスはある会堂で教えておられた。
【新約・135頁】
(11)そこに、十八年間も病の霊に取りつかれている女がいた。腰が曲がったまま、どうしても伸ばすことができなかった。(12)イエスはその女を見て呼び寄せ、「婦人よ、病気は治った」と言って、(13)その上に手を置かれた。女は、たちどころに腰がまっすぐになり、神を賛美した。(14)ところが会堂長は、イエスが安息日に病人をいやされたことに腹を立て、群衆に言った。「働くべき日は六日ある。その間に来て治してもらうがよい。安息日はいけない。」(15)しかし、主は彼に答えて言われた。「偽善者たちよ、あなたたちはだれでも、安息日にも牛やろばを飼い葉桶から解いて、水を飲ませに引いて行くではないか。(16)この女はアブラハムの娘なのに、十八年もの間サタンに縛られていたのだ。安息日であっても、その束縛から解いてやるべきではなかったのか。」(17)こう言われると、反対者は皆恥じ入ったが、群衆はこぞって、イエスがなさった数々のすばらしい行いを見て喜んだ。

◆「からし種」と「パン種」のたとえ
(18)そこで、イエスは言われた。「神の国は何に似ているか。何にたとえようか。(19)それは、からし種に似ている。人がこれを取って庭に蒔くと、成長して木になり、その枝には空の鳥が巣を作る。」
(20)また言われた。「神の国を何にたとえようか。(21)パン種に似ている。女がこれを取って三サトンの粉に混ぜると、やがて全体が膨れる。」

◆狭い戸口
(22)イエスは町や村を巡って教えながら、エルサレムへ向かって進んでおられた。(23)すると、「主よ、救われる者は少ないのでしょうか」と言う人がいた。イエスは一同に言われた。(24)「狭い戸口から入るように努めなさい。言っておくが、入ろうとしても入れない人が多いのだ。(25)家の主人が立ち上がって、戸を閉めてしまってからでは、あなたがたが外に立って戸をたたき、『御主人様、開けてください』と言っても、『お前たちがどこの者か知らない』という答えが返ってくるだけである。(26)そのとき、あなたがたは、『御一緒に食べたり飲んだりしましたし、また、わたしたちの広場でお教えを受けたのです』と言いだすだろう。(27)しかし主人は、『お前たちがどこの者か知らない。不義を行う者ども、皆わたしから立ち去れ』と言うだろう。(28)あなたがたは、アブラハム、イサク、ヤコブやすべての預言者たちが神の国に入っているのに、自分は外に投げ出されることになり、そこで泣きわめいて歯ぎしりする。
【新約・136頁】
(29)そして人々は、東から西から、また南から北から来て、神の国で宴会の席に着く。(30)そこでは、後の人で先になる者があり、先の人で後になる者もある。」

◆エルサレムのために嘆く
(31)ちょうどそのとき、ファリサイ派の人々が何人か近寄って来て、イエスに言った。「ここを立ち去ってください。ヘロデがあなたを殺そうとしています。」(32)イエスは言われた。「行って、あの狐に、『今日も明日も、悪霊を追い出し、病気をいやし、三日目にすべてを終える』とわたしが言ったと伝えなさい。(33)だが、わたしは今日も明日も、その次の日も自分の道を進まねばならない。預言者がエルサレム以外の所で死ぬことは、ありえないからだ。(34)エルサレム、エルサレム、預言者たちを殺し、自分に遣わされた人々を石で打ち殺す者よ、めん鳥が雛を羽の下に集めるように、わたしはお前の子らを何度集めようとしたことか。だが、お前たちは応じようとしなかった。(35)見よ、お前たちの家は見捨てられる。言っておくが、お前たちは、『主の名によって来られる方に、祝福があるように』と言う時が来るまで、決してわたしを見ることがない。」

◆安息日に水腫の人をいやす
14
(1)安息日のことだった。イエスは食事のためにファリサイ派のある議員の家にお入りになったが、人々はイエスの様子をうかがっていた。(2)そのとき、イエスの前に水腫を患っている人がいた。(3)そこで、イエスは律法の専門家たちやファリサイ派の人々に言われた。「安息日に病気を治すことは律法で許されているか、いないか。」(4)彼らは黙っていた。すると、イエスは病人の手を取り、病気をいやしてお帰しになった。(5)そして、言われた。「あなたたちの中に、自分の息子か牛が井戸に落ちたら、安息日だからといって、すぐに引き上げてやらない者がいるだろうか。」(6)彼らは、これに対して答えることができなかった。

◆客と招待する者への教訓
(7)イエスは、招待を受けた客が上席を選ぶ様子に気づいて、彼らにたとえを話された。(8)「婚宴に招待されたら、上席に着いてはならない。あなたよりも身分の高い人が招かれており、(9)あなたやその人を招いた人が来て、『この方に席を譲ってください』と言うかもしれない。そのとき、あなたは恥をかいて末席に着くことになる。(10)招待を受けたら、むしろ末席に行って座りなさい。そうすると、あなたを招いた人が来て、『さあ、もっと上席に進んでください』と言うだろう。そのときは、同席の人みんなの前で面目を施すことになる。
【新約・137頁】
(11)だれでも高ぶる者は低くされ、へりくだる者は高められる。」(12)また、イエスは招いてくれた人にも言われた。「昼食や夕食の会を催すときには、友人も、兄弟も、親類も、近所の金持ちも呼んではならない。その人たちも、あなたを招いてお返しをするかも知れないからである。(13)宴会を催すときには、むしろ、貧しい人、体の不自由な人、足の不自由な人、目の見えない人を招きなさい。(14)そうすれば、その人たちはお返しができないから、あなたは幸いだ。正しい者たちが復活するとき、あなたは報われる。」

◆「大宴会」のたとえ
(15)食事を共にしていた客の一人は、これを聞いてイエスに、「神の国で食事をする人は、なんと幸いなことでしょう」と言った。(16)そこで、イエスは言われた。「ある人が盛大な宴会を催そうとして、大勢の人を招き、(17)宴会の時刻になったので、僕を送り、招いておいた人々に、『もう用意ができましたから、おいでください』と言わせた。(18)すると皆、次々に断った。最初の人は、『畑を買ったので、見に行かねばなりません。どうか、失礼させてください』と言った。(19)ほかの人は、『牛を二頭ずつ五組買ったので、それを調べに行くところです。どうか、失礼させてください』と言った。(20)また別の人は、『妻を迎えたばかりなので、行くことができません』と言った。(21)僕は帰って、このことを主人に報告した。すると、家の主人は怒って、僕に言った。『急いで町の広場や路地へ出て行き、貧しい人、体の不自由な人、目の見えない人、足の不自由な人をここに連れて来なさい。』(22)やがて、僕が、『御主人様、仰せのとおりにいたしましたが、まだ席があります』と言うと、(23)主人は言った。『通りや小道に出て行き、無理にでも人々を連れて来て、この家をいっぱいにしてくれ。(24)言っておくが、あの招かれた人たちの中で、わたしの食事を味わう者は一人もいない。』」

◆弟子の条件
(25)大勢の群衆が一緒について来たが、イエスは振り向いて言われた。(26)「もし、だれかがわたしのもとに来るとしても、父、母、妻、子供、兄弟、姉妹を、更に自分の命であろうとも、これを憎まないなら、わたしの弟子ではありえない。(27)自分の十字架を背負ってついて来る者でなければ、だれであれ、わたしの弟子ではありえない。
【新約・138頁】
(28)あなたがたのうち、塔を建てようとするとき、造り上げるのに十分な費用があるかどうか、まず腰をすえて計算しない者がいるだろうか。(29)そうしないと、土台を築いただけで完成できず、見ていた人々は皆あざけって、(30)『あの人は建て始めたが、完成することはできなかった』と言うだろう。(31)また、どんな王でも、ほかの王と戦いに行こうとするときは、二万の兵を率いて進軍して来る敵を、自分の一万の兵で迎え撃つことができるかどうか、まず腰をすえて考えてみないだろうか。(32)もしできないと分かれば、敵がまだ遠方にいる間に使節を送って、和を求めるだろう。(33)だから、同じように、自分の持ち物を一切捨てないならば、あなたがたのだれ一人としてわたしの弟子ではありえない。」

◆塩気のなくなった塩
(34)「確かに塩は良いものだ。だが、塩も塩気がなくなれば、その塩は何によって味が付けられようか。(35)畑にも肥料にも、役立たず、外に投げ捨てられるだけだ。聞く耳のある者は聞きなさい。」

◆「見失った羊」のたとえ
15
(1)徴税人や罪人が皆、話を聞こうとしてイエスに近寄って来た。(2)すると、ファリサイ派の人々や律法学者たちは、「この人は罪人たちを迎えて、食事まで一緒にしている」と不平を言いだした。(3)そこで、イエスは次のたとえを話された。(4)「あなたがたの中に、百匹の羊を持っている人がいて、その一匹を見失ったとすれば、九十九匹を野原に残して、見失った一匹を見つけ出すまで捜し回らないだろうか。(5)そして、見つけたら、喜んでその羊を担いで、(6)家に帰り、友達や近所の人々を呼び集めて、『見失った羊を見つけたので、一緒に喜んでください』と言うであろう。(7)言っておくが、このように、悔い改める一人の罪人については、悔い改める必要のない九十九人の正しい人についてよりも大きな喜びが天にある。」

◆「無くした銀貨」のたとえ
(8)「あるいは、ドラクメ銀貨を十枚持っている女がいて、その一枚を無くしたとすれば、ともし火をつけ、家を掃き、見つけるまで念を入れて捜さないだろうか。(9)そして、見つけたら、友達や近所の女たちを呼び集めて、『無くした銀貨を見つけましたから、一緒に喜んでください』と言うであろう。(10)言っておくが、このように、一人の罪人が悔い改めれば、神の天使たちの間に喜びがある。」

◆「放蕩息子」のたとえ

【新約・139頁】
(11)また、イエスは言われた。「ある人に息子が二人いた。(12)弟の方が父親に、『お父さん、わたしが頂くことになっている財産の分け前をください』と言った。それで、父親は財産を二人に分けてやった。(13)何日もたたないうちに、下の息子は全部を金に換えて、遠い国に旅立ち、そこで放蕩の限りを尽くして、財産を無駄使いしてしまった。(14)何もかも使い果たしたとき、その地方にひどい飢饉が起こって、彼は食べるにも困り始めた。(15)それで、その地方に住むある人のところに身を寄せたところ、その人は彼を畑にやって豚の世話をさせた。(16)彼は豚の食べるいなご豆を食べてでも腹を満たしたかったが、食べ物をくれる人はだれもいなかった。(17)そこで、彼は我に返って言った。『父のところでは、あんなに大勢の雇い人に、有り余るほどパンがあるのに、わたしはここで飢え死にしそうだ。(18)ここをたち、父のところに行って言おう。「お父さん、わたしは天に対しても、またお父さんに対しても罪を犯しました。(19)もう息子と呼ばれる資格はありません。雇い人の一人にしてください」と。』(20)そして、彼はそこをたち、父親のもとに行った。ところが、まだ遠く離れていたのに、父親は息子を見つけて、憐れに思い、走り寄って首を抱き、接吻した。(21)息子は言った。『お父さん、わたしは天に対しても、またお父さんに対しても罪を犯しました。もう息子と呼ばれる資格はありません。』(22)しかし、父親は僕たちに言った。『急いでいちばん良い服を持って来て、この子に着せ、手に指輪をはめてやり、足に履物を履かせなさい。(23)それから、肥えた子牛を連れて来て屠りなさい。食べて祝おう。(24)この息子は、死んでいたのに生き返り、いなくなっていたのに見つかったからだ。』そして、祝宴を始めた。
(25)ところで、兄の方は畑にいたが、家の近くに来ると、音楽や踊りのざわめきが聞こえてきた。(26)そこで、僕の一人を呼んで、これはいったい何事かと尋ねた。(27)僕は言った。『弟さんが帰って来られました。無事な姿で迎えたというので、お父上が肥えた子牛を屠られたのです。』(28)兄は怒って家に入ろうとはせず、父親が出て来てなだめた。(29)しかし、兄は父親に言った。『このとおり、わたしは何年もお父さんに仕えています。言いつけに背いたことは一度もありません。それなのに、わたしが友達と宴会をするために、子山羊一匹すらくれなかったではありませんか。(30)ところが、あなたのあの息子が、娼婦どもと一緒にあなたの身上を食いつぶして帰って来ると、肥えた子牛を屠っておやりになる。』
【新約・140頁】
(31)すると、父親は言った。『子よ、お前はいつもわたしと一緒にいる。わたしのものは全部お前のものだ。(32)だが、お前のあの弟は死んでいたのに生き返った。いなくなっていたのに見つかったのだ。祝宴を開いて楽しみ喜ぶのは当たり前ではないか。』」

◆「不正な管理人」のたとえ
16
(1)イエスは、弟子たちにも次のように言われた。「ある金持ちに一人の管理人がいた。この男が主人の財産を無駄使いしていると、告げ口をする者があった。(2)そこで、主人は彼を呼びつけて言った。『お前について聞いていることがあるが、どうなのか。会計の報告を出しなさい。もう管理を任せておくわけにはいかない。』(3)管理人は考えた。『どうしようか。主人はわたしから管理の仕事を取り上げようとしている。土を掘る力もないし、物乞いをするのも恥ずかしい。(4)そうだ。こうしよう。管理の仕事をやめさせられても、自分を家に迎えてくれるような者たちを作ればいいのだ。』(5)そこで、管理人は主人に借りのある者を一人一人呼んで、まず最初の人に、『わたしの主人にいくら借りがあるのか』と言った。(6)『油百バトス』と言うと、管理人は言った。『これがあなたの証文だ。急いで、腰を掛けて、五十バトスと書き直しなさい。』(7)また別の人には、『あなたは、いくら借りがあるのか』と言った。『小麦百コロス』と言うと、管理人は言った。『これがあなたの証文だ。八十コロスと書き直しなさい。』(8)主人は、この不正な管理人の抜け目のないやり方をほめた。この世の子らは、自分の仲間に対して、光の子らよりも賢くふるまっている。(9)そこで、わたしは言っておくが、不正にまみれた富で友達を作りなさい。そうしておけば、金がなくなったとき、あなたがたは永遠の住まいに迎え入れてもらえる。(10)ごく小さな事に忠実な者は、大きな事にも忠実である。ごく小さな事に不忠実な者は、大きな事にも不忠実である。(11)だから、不正にまみれた富について忠実でなければ、だれがあなたがたに本当に価値あるものを任せるだろうか。(12)また、他人のものについて忠実でなければ、だれがあなたがたのものを与えてくれるだろうか。(13)どんな召し使いも二人の主人に仕えることはできない。一方を憎んで他方を愛するか、一方に親しんで他方を軽んじるか、どちらかである。あなたがたは、神と富とに仕えることはできない。」

◆律法と神の国

【新約・141頁】
(14)金に執着するファリサイ派の人々が、この一部始終を聞いて、イエスをあざ笑った。(15)そこで、イエスは言われた。「あなたたちは人に自分の正しさを見せびらかすが、神はあなたたちの心をご存じである。人に尊ばれるものは、神には忌み嫌われるものだ。(16)律法と預言者は、ヨハネの時までである。それ以来、神の国の福音が告げ知らされ、だれもが力ずくでそこに入ろうとしている。(17)しかし、律法の文字の一画がなくなるよりは、天地の消えうせる方が易しい。(18)妻を離縁して他の女を妻にする者はだれでも、姦通の罪を犯すことになる。離縁された女を妻にする者も姦通の罪を犯すことになる。」

◆金持ちとラザロ
(19)「ある金持ちがいた。いつも紫の衣や柔らかい麻布を着て、毎日ぜいたくに遊び暮らしていた。(20)この金持ちの門前に、ラザロというできものだらけの貧しい人が横たわり、(21)その食卓から落ちる物で腹を満たしたいものだと思っていた。犬もやって来ては、そのできものをなめた。(22)やがて、この貧しい人は死んで、天使たちによって宴席にいるアブラハムのすぐそばに連れて行かれた。金持ちも死んで葬られた。(23)そして、金持ちは陰府でさいなまれながら目を上げると、宴席でアブラハムとそのすぐそばにいるラザロとが、はるかかなたに見えた。(24)そこで、大声で言った。『父アブラハムよ、わたしを憐れんでください。ラザロをよこして、指先を水に浸し、わたしの舌を冷やさせてください。わたしはこの炎の中でもだえ苦しんでいます。』(25)しかし、アブラハムは言った。『子よ、思い出してみるがよい。お前は生きている間に良いものをもらっていたが、ラザロは反対に悪いものをもらっていた。今は、ここで彼は慰められ、お前はもだえ苦しむのだ。(26)そればかりか、わたしたちとお前たちの間には大きな淵があって、ここからお前たちの方へ渡ろうとしてもできないし、そこからわたしたちの方に越えて来ることもできない。』(27)金持ちは言った。『父よ、ではお願いです。わたしの父親の家にラザロを遣わしてください。(28)わたしには兄弟が五人います。あの者たちまで、こんな苦しい場所に来ることのないように、よく言い聞かせてください。』(29)しかし、アブラハムは言った。『お前の兄弟たちにはモーセと預言者がいる。彼らに耳を傾けるがよい。』(30)金持ちは言った。『いいえ、父アブラハムよ、もし、死んだ者の中からだれかが兄弟のところに行ってやれば、悔い改めるでしょう。』(31)アブラハムは言った。『もし、モーセと預言者に耳を傾けないのなら、たとえ死者の中から生き返る者があっても、その言うことを聞き入れはしないだろう。』」

◆赦し、信仰、奉仕
17

【新約・142頁】
(1)イエスは弟子たちに言われた。「つまずきは避けられない。だが、それをもたらす者は不幸である。(2)そのような者は、これらの小さい者の一人をつまずかせるよりも、首にひき臼を懸けられて、海に投げ込まれてしまう方がましである。(3)あなたがたも気をつけなさい。もし兄弟が罪を犯したら、戒めなさい。そして、悔い改めれば、赦してやりなさい。(4)一日に七回あなたに対して罪を犯しても、七回、『悔い改めます』と言ってあなたのところに来るなら、赦してやりなさい。」
(5)使徒たちが、「わたしどもの信仰を増してください」と言ったとき、(6)主は言われた。「もしあなたがたにからし種一粒ほどの信仰があれば、この桑の木に、『抜け出して海に根を下ろせ』と言っても、言うことを聞くであろう。
(7)あなたがたのうちだれかに、畑を耕すか羊を飼うかする僕がいる場合、その僕が畑から帰って来たとき、『すぐ来て食事の席に着きなさい』と言う者がいるだろうか。(8)むしろ、『夕食の用意をしてくれ。腰に帯を締め、わたしが食事を済ますまで給仕してくれ。お前はその後で食事をしなさい』と言うのではなかろうか。(9)命じられたことを果たしたからといって、主人は僕に感謝するだろうか。(10)あなたがたも同じことだ。自分に命じられたことをみな果たしたら、『わたしどもは取るに足りない僕です。しなければならないことをしただけです』と言いなさい。」

◆らい病を患っている十人の人をいやす
(11)イエスはエルサレムへ上る途中、サマリアとガリラヤの間を通られた。(12)ある村に入ると、らい病を患っている十人の人が出迎え、遠くの方に立ち止まったまま、(13)声を張り上げて、「イエスさま、先生、どうか、わたしたちを憐れんでください」と言った。(14)イエスはらい病を患っている人たちを見て、「祭司たちのところに行って、体を見せなさい」と言われた。彼らは、そこへ行く途中で清くされた。(15)その中の一人は、自分がいやされたのを知って、大声で神を賛美しながら戻って来た。(16)そして、イエスの足もとにひれ伏して感謝した。この人はサマリア人だった。(17)そこで、イエスは言われた。「清くされたのは十人ではなかったか。ほかの九人はどこにいるのか。(18)この外国人のほかに、神を賛美するために戻って来た者はいないのか。」
【新約・143頁】
(19)それから、イエスはその人に言われた。「立ち上がって、行きなさい。あなたの信仰があなたを救った。」

◆神の国が来る
(20)ファリサイ派の人々が、神の国はいつ来るのかと尋ねたので、イエスは答えて言われた。「神の国は、見える形では来ない。(21)『ここにある』『あそこにある』と言えるものでもない。実に、神の国はあなたがたの間にあるのだ。」(22)それから、イエスは弟子たちに言われた。「あなたがたが、人の子の日を一日だけでも見たいと望む時が来る。しかし、見ることはできないだろう。(23)『見よ、あそこだ』『見よ、ここだ』と人々は言うだろうが、出て行ってはならない。また、その人々の後を追いかけてもいけない。(24)稲妻がひらめいて、大空の端から端へと輝くように、人の子もその日に現れるからである。(25)しかし、人の子はまず必ず、多くの苦しみを受け、今の時代の者たちから排斥されることになっている。(26)ノアの時代にあったようなことが、人の子が現れるときにも起こるだろう。(27)ノアが箱舟に入るその日まで、人々は食べたり飲んだり、めとったり嫁いだりしていたが、洪水が襲って来て、一人残らず滅ぼしてしまった。(28)ロトの時代にも同じようなことが起こった。人々は食べたり飲んだり、買ったり売ったり、植えたり建てたりしていたが、(29)ロトがソドムから出て行ったその日に、火と硫黄が天から降ってきて、一人残らず滅ぼしてしまった。(30)人の子が現れる日にも、同じことが起こる。(31)その日には、屋上にいる者は、家の中に家財道具があっても、それを取り出そうとして下に降りてはならない。同じように、畑にいる者も帰ってはならない。(32)ロトの妻のことを思い出しなさい。(33)自分の命を生かそうと努める者は、それを失い、それを失う者は、かえって保つのである。(34)言っておくが、その夜一つの寝室に二人の男が寝ていれば、一人は連れて行かれ、他の一人は残される。(35)二人の女が一緒に臼をひいていれば、一人は連れて行かれ、他の一人は残される。」†(37)そこで弟子たちが、「主よ、それはどこで起こるのですか」と言った。イエスは言われた。「死体のある所には、はげ鷹も集まるものだ。」

◆「やもめと裁判官」のたとえ
18
(1)イエスは、気を落とさずに絶えず祈らなければならないことを教えるために、弟子たちにたとえを話された。(2)「ある町に、神を畏れず人を人とも思わない裁判官がいた。
【新約・144頁】
(3)ところが、その町に一人のやもめがいて、裁判官のところに来ては、『相手を裁いて、わたしを守ってください』と言っていた。(4)裁判官は、しばらくの間は取り合おうとしなかった。しかし、その後に考えた。『自分は神など畏れないし、人を人とも思わない。(5)しかし、あのやもめは、うるさくてかなわないから、彼女のために裁判をしてやろう。さもないと、ひっきりなしにやって来て、わたしをさんざんな目に遭わすにちがいない。』」(6)それから、主は言われた。「この不正な裁判官の言いぐさを聞きなさい。(7)まして神は、昼も夜も叫び求めている選ばれた人たちのために裁きを行わずに、彼らをいつまでもほうっておかれることがあろうか。(8)言っておくが、神は速やかに裁いてくださる。しかし、人の子が来るとき、果たして地上に信仰を見いだすだろうか。」

◆「ファリサイ派の人と徴税人」のたとえ
(9)自分は正しい人間だとうぬぼれて、他人を見下している人々に対しても、イエスは次のたとえを話された。(10)「二人の人が祈るために神殿に上った。一人はファリサイ派の人で、もう一人は徴税人だった。(11)ファリサイ派の人は立って、心の中でこのように祈った。『神様、わたしはほかの人たちのように、奪い取る者、不正な者、姦通を犯す者でなく、また、この徴税人のような者でもないことを感謝します。(12)わたしは週に二度断食し、全収入の十分の一を献げています。』(13)ところが、徴税人は遠くに立って、目を天に上げようともせず、胸を打ちながら言った。『神様、罪人のわたしを憐れんでください。』(14)言っておくが、義とされて家に帰ったのは、この人であって、あのファリサイ派の人ではない。だれでも高ぶる者は低くされ、へりくだる者は高められる。」

◆子供を祝福する
(15)イエスに触れていただくために、人々は乳飲み子までも連れて来た。弟子たちは、これを見て叱った。(16)しかし、イエスは乳飲み子たちを呼び寄せて言われた。「子供たちをわたしのところに来させなさい。妨げてはならない。神の国はこのような者たちのものである。(17)はっきり言っておく。子供のように神の国を受け入れる人でなければ、決してそこに入ることはできない。」

◆金持ちの議員
(18)ある議員がイエスに、「善い先生、何をすれば永遠の命を受け継ぐことができるでしょうか」と尋ねた。
【新約・145頁】
(19)イエスは言われた。「なぜ、わたしを『善い』と言うのか。神おひとりのほかに、善い者はだれもいない。(20)『姦淫するな、殺すな、盗むな、偽証するな、父母を敬え』という掟をあなたは知っているはずだ。」(21)すると議員は、「そういうことはみな、子供の時から守ってきました」と言った。(22)これを聞いて、イエスは言われた。「あなたに欠けているものがまだ一つある。持っている物をすべて売り払い、貧しい人々に分けてやりなさい。そうすれば、天に富を積むことになる。それから、わたしに従いなさい。」(23)しかし、その人はこれを聞いて非常に悲しんだ。大変な金持ちだったからである。
(24)イエスは、議員が非常に悲しむのを見て、言われた。「財産のある者が神の国に入るのは、なんと難しいことか。(25)金持ちが神の国に入るよりも、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい。」(26)これを聞いた人々が、「それでは、だれが救われるのだろうか」と言うと、(27)イエスは、「人間にはできないことも、神にはできる」と言われた。(28)するとペトロが、「このとおり、わたしたちは自分の物を捨ててあなたに従って参りました」と言った。(29)イエスは言われた。「はっきり言っておく。神の国のために、家、妻、兄弟、両親、子供を捨てた者はだれでも、(30)この世ではその何倍もの報いを受け、後の世では永遠の命を受ける。」

◆イエス、三度死と復活を予告する
(31)イエスは、十二人を呼び寄せて言われた。「今、わたしたちはエルサレムへ上って行く。人の子について預言者が書いたことはみな実現する。(32)人の子は異邦人に引き渡されて、侮辱され、乱暴な仕打ちを受け、唾をかけられる。(33)彼らは人の子を、鞭打ってから殺す。そして、人の子は三日目に復活する。」(34)十二人はこれらのことが何も分からなかった。彼らにはこの言葉の意味が隠されていて、イエスの言われたことが理解できなかったのである。

◆エリコの近くで盲人をいやす
(35)イエスがエリコに近づかれたとき、ある盲人が道端に座って物乞いをしていた。(36)群衆が通って行くのを耳にして、「これは、いったい何事ですか」と尋ねた。(37)「ナザレのイエスのお通りだ」と知らせると、(38)彼は、「ダビデの子イエスよ、わたしを憐れんでください」と叫んだ。(39)先に行く人々が叱りつけて黙らせようとしたが、ますます、「ダビデの子よ、わたしを憐れんでください」と叫び続けた。
【新約・146頁】
(40)イエスは立ち止まって、盲人をそばに連れて来るように命じられた。彼が近づくと、イエスはお尋ねになった。(41)「何をしてほしいのか。」盲人は、「主よ、目が見えるようになりたいのです」と言った。(42)そこで、イエスは言われた。「見えるようになれ。あなたの信仰があなたを救った。」(43)盲人はたちまち見えるようになり、神をほめたたえながら、イエスに従った。これを見た民衆は、こぞって神を賛美した。

◆徴税人ザアカイ
19
(1)イエスはエリコに入り、町を通っておられた。(2)そこにザアカイという人がいた。この人は徴税人の頭で、金持ちであった。(3)イエスがどんな人か見ようとしたが、背が低かったので、群衆に遮られて見ることができなかった。(4)それで、イエスを見るために、走って先回りし、いちじく桑の木に登った。そこを通り過ぎようとしておられたからである。(5)イエスはその場所に来ると、上を見上げて言われた。「ザアカイ、急いで降りて来なさい。今日は、ぜひあなたの家に泊まりたい。」(6)ザアカイは急いで降りて来て、喜んでイエスを迎えた。(7)これを見た人たちは皆つぶやいた。「あの人は罪深い男のところに行って宿をとった。」(8)しかし、ザアカイは立ち上がって、主に言った。「主よ、わたしは財産の半分を貧しい人々に施します。また、だれかから何かだまし取っていたら、それを四倍にして返します。」(9)イエスは言われた。「今日、救いがこの家を訪れた。この人もアブラハムの子なのだから。(10)人の子は、失われたものを捜して救うために来たのである。」

◆「ムナ」のたとえ
(11)人々がこれらのことに聞き入っているとき、イエスは更に一つのたとえを話された。エルサレムに近づいておられ、それに、人々が神の国はすぐにも現れるものと思っていたからである。(12)イエスは言われた。「ある立派な家柄の人が、王の位を受けて帰るために、遠い国へ旅立つことになった。(13)そこで彼は、十人の僕を呼んで十ムナの金を渡し、『わたしが帰って来るまで、これで商売をしなさい』と言った。(14)しかし、国民は彼を憎んでいたので、後から使者を送り、『我々はこの人を王にいただきたくない』と言わせた。(15)さて、彼は王の位を受けて帰って来ると、金を渡しておいた僕を呼んで来させ、どれだけ利益を上げたかを知ろうとした。(16)最初の者が進み出て、『御主人様、あなたの一ムナで十ムナもうけました』と言った。(17)主人は言った。『良い僕だ。よくやった。お前はごく小さな事に忠実だったから、十の町の支配権を授けよう。』
【新約・147頁】
(18)二番目の者が来て、『御主人様、あなたの一ムナで五ムナ稼ぎました』と言った。(19)主人は、『お前は五つの町を治めよ』と言った。(20)また、ほかの者が来て言った。『御主人様、これがあなたの一ムナです。布に包んでしまっておきました。(21)あなたは預けないものも取り立て、蒔かないものも刈り取られる厳しい方なので、恐ろしかったのです。』(22)主人は言った。『悪い僕だ。その言葉のゆえにお前を裁こう。わたしが預けなかったものも取り立て、蒔かなかったものも刈り取る厳しい人間だと知っていたのか。(23)ではなぜ、わたしの金を銀行に預けなかったのか。そうしておけば、帰って来たとき、利息付きでそれを受け取れたのに。』(24)そして、そばに立っていた人々に言った。『その一ムナをこの男から取り上げて、十ムナ持っている者に与えよ。』(25)僕たちが、『御主人様、あの人は既に十ムナ持っています』と言うと、(26)主人は言った。『言っておくが、だれでも持っている人は、更に与えられるが、持っていない人は、持っているものまでも取り上げられる。(27)ところで、わたしが王になるのを望まなかったあの敵どもを、ここに引き出して、わたしの目の前で打ち殺せ。』」

◆エルサレムに迎えられる
(28)イエスはこのように話してから、先に立って進み、エルサレムに上って行かれた。(29)そして、「オリーブ畑」と呼ばれる山のふもとにあるベトファゲとベタニアに近づいたとき、二人の弟子を使いに出そうとして、(30)言われた。「向こうの村へ行きなさい。そこに入ると、まだだれも乗ったことのない子ろばのつないであるのが見つかる。それをほどいて、引いて来なさい。(31)もし、だれかが、『なぜほどくのか』と尋ねたら、『主がお入り用なのです』と言いなさい。」(32)使いに出された者たちが出かけて行くと、言われたとおりであった。(33)ろばの子をほどいていると、その持ち主たちが、「なぜ、子ろばをほどくのか」と言った。(34)二人は、「主がお入り用なのです」と言った。(35)そして、子ろばをイエスのところに引いて来て、その上に自分の服をかけ、イエスをお乗せした。(36)イエスが進んで行かれると、人々は自分の服を道に敷いた。
(37)イエスがオリーブ山の下り坂にさしかかられたとき、弟子の群れはこぞって、自分の見たあらゆる奇跡のことで喜び、声高らかに神を賛美し始めた。
(38)「主の名によって来られる方、王に、
祝福があるように。
天には平和、
いと高きところには栄光。」

【新約・148頁】
(39)すると、ファリサイ派のある人々が、群衆の中からイエスに向かって、「先生、お弟子たちを叱ってください」と言った。(40)イエスはお答えになった。「言っておくが、もしこの人たちが黙れば、石が叫びだす。」
(41)エルサレムに近づき、都が見えたとき、イエスはその都のために泣いて、(42)言われた。「もしこの日に、お前も平和への道をわきまえていたなら……。しかし今は、それがお前には見えない。(43)やがて時が来て、敵が周りに堡塁を築き、お前を取り巻いて四方から攻め寄せ、(44)お前とそこにいるお前の子らを地にたたきつけ、お前の中の石を残らず崩してしまうだろう。それは、神の訪れてくださる時をわきまえなかったからである。」

◆神殿から商人を追い出す
(45)それから、イエスは神殿の境内に入り、そこで商売をしていた人々を追い出し始めて、(46)彼らに言われた。「こう書いてある。
『わたしの家は、祈りの家でなければならない。』
ところが、あなたたちはそれを強盗の巣にした。」
(47)毎日、イエスは境内で教えておられた。祭司長、律法学者、民の指導者たちは、イエスを殺そうと謀ったが、(48)どうすることもできなかった。民衆が皆、夢中になってイエスの話に聞き入っていたからである。

◆権威についての問答
20
(1)ある日、イエスが神殿の境内で民衆に教え、福音を告げ知らせておられると、祭司長や律法学者たちが、長老たちと一緒に近づいて来て、(2)言った。「我々に言いなさい。何の権威でこのようなことをしているのか。その権威を与えたのはだれか。」(3)イエスはお答えになった。「では、わたしも一つ尋ねるから、それに答えなさい。(4)ヨハネの洗礼は、天からのものだったか、それとも、人からのものだったか。」(5)彼らは相談した。「『天からのものだ』と言えば、『では、なぜヨハネを信じなかったのか』と言うだろう。(6)『人からのものだ』と言えば、民衆はこぞって我々を石で殺すだろう。ヨハネを預言者だと信じ込んでいるのだから。」(7)そこで彼らは、「どこからか、分からない」と答えた。(8)すると、イエスは言われた。「それなら、何の権威でこのようなことをするのか、わたしも言うまい。」

◆「ぶどう園と農夫」のたとえ

【新約・149頁】
(9)イエスは民衆にこのたとえを話し始められた。「ある人がぶどう園を作り、これを農夫たちに貸して長い旅に出た。(10)収穫の時になったので、ぶどう園の収穫を納めさせるために、僕を農夫たちのところへ送った。ところが、農夫たちはこの僕を袋だたきにして、何も持たせないで追い返した。(11)そこでまた、ほかの僕を送ったが、農夫たちはこの僕をも袋だたきにし、侮辱して何も持たせないで追い返した。(12)更に三人目の僕を送ったが、これにも傷を負わせてほうり出した。(13)そこで、ぶどう園の主人は言った。『どうしようか。わたしの愛する息子を送ってみよう。この子ならたぶん敬ってくれるだろう。』(14)農夫たちは息子を見て、互いに論じ合った。『これは跡取りだ。殺してしまおう。そうすれば、相続財産は我々のものになる。』(15)そして、息子をぶどう園の外にほうり出して、殺してしまった。さて、ぶどう園の主人は農夫たちをどうするだろうか。(16)戻って来て、この農夫たちを殺し、ぶどう園をほかの人たちに与えるにちがいない。」彼らはこれを聞いて、「そんなことがあってはなりません」と言った。(17)イエスは彼らを見つめて言われた。「それでは、こう書いてあるのは、何の意味か。
『家を建てる者の捨てた石、
これが隅の親石となった。』
(18)その石の上に落ちる者はだれでも打ち砕かれ、その石がだれかの上に落ちれば、その人は押しつぶされてしまう。」(19)そのとき、律法学者たちや祭司長たちは、イエスが自分たちに当てつけてこのたとえを話されたと気づいたので、イエスに手を下そうとしたが、民衆を恐れた。

◆皇帝への税金
(20)そこで、機会をねらっていた彼らは、正しい人を装う回し者を遣わし、イエスの言葉じりをとらえ、総督の支配と権力にイエスを渡そうとした。(21)回し者らはイエスに尋ねた。「先生、わたしたちは、あなたがおっしゃることも、教えてくださることも正しく、また、えこひいきなしに、真理に基づいて神の道を教えておられることを知っています。(22)ところで、わたしたちが皇帝に税金を納めるのは、律法に適っているでしょうか、適っていないでしょうか。」(23)イエスは彼らのたくらみを見抜いて言われた。(24)「デナリオン銀貨を見せなさい。そこには、だれの肖像と銘があるか。」彼らが「皇帝のものです」と言うと、(25)イエスは言われた。「それならば、皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返しなさい。」
【新約・150頁】
(26)彼らは民衆の前でイエスの言葉じりをとらえることができず、その答えに驚いて黙ってしまった。

◆復活についての問答
(27)さて、復活があることを否定するサドカイ派の人々が何人か近寄って来て、イエスに尋ねた。(28)「先生、モーセはわたしたちのために書いています。『ある人の兄が妻をめとり、子がなくて死んだ場合、その弟は兄嫁と結婚して、兄の跡継ぎをもうけねばならない』と。(29)ところで、七人の兄弟がいました。長男が妻を迎えましたが、子がないまま死にました。(30)次男、(31)三男と次々にこの女を妻にしましたが、七人とも同じように子供を残さないで死にました。(32)最後にその女も死にました。(33)すると復活の時、その女はだれの妻になるのでしょうか。七人ともその女を妻にしたのです。」(34)イエスは言われた。「この世の子らはめとったり嫁いだりするが、(35)次の世に入って死者の中から復活するのにふさわしいとされた人々は、めとることも嫁ぐこともない。(36)この人たちは、もはや死ぬことがない。天使に等しい者であり、復活にあずかる者として、神の子だからである。(37)死者が復活することは、モーセも『柴』の個所で、主をアブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神と呼んで、示している。(38)神は死んだ者の神ではなく、生きている者の神なのだ。すべての人は、神によって生きているからである。」(39)そこで、律法学者の中には、「先生、立派なお答えです」と言う者もいた。(40)彼らは、もはや何もあえて尋ねようとはしなかった。

◆ダビデの子についての問答
(41)イエスは彼らに言われた。「どうして人々は、『メシアはダビデの子だ』と言うのか。(42)ダビデ自身が詩編の中で言っている。
『主は、わたしの主にお告げになった。
「わたしの右の座に着きなさい。
(43)わたしがあなたの敵を
あなたの足台とするときまで」と。』
(44)このようにダビデがメシアを主と呼んでいるのに、どうしてメシアがダビデの子なのか。」

◆律法学者を非難する
(45)民衆が皆聞いているとき、イエスは弟子たちに言われた。
【新約・151頁】
(46)「律法学者に気をつけなさい。彼らは長い衣をまとって歩き回りたがり、また、広場で挨拶されること、会堂では上席、宴会では上座に座ることを好む。(47)そして、やもめの家を食い物にし、見せかけの長い祈りをする。このような者たちは、人一倍厳しい裁きを受けることになる。」

◆やもめの献金
21
(1)イエスは目を上げて、金持ちたちが賽銭箱に献金を入れるのを見ておられた。(2)そして、ある貧しいやもめがレプトン銅貨二枚を入れるのを見て、(3)言われた。「確かに言っておくが、この貧しいやもめは、だれよりもたくさん入れた。(4)あの金持ちたちは皆、有り余る中から献金したが、この人は、乏しい中から持っている生活費を全部入れたからである。」

◆神殿の崩壊を予告する
(5)ある人たちが、神殿が見事な石と奉納物で飾られていることを話していると、イエスは言われた。(6)「あなたがたはこれらの物に見とれているが、一つの石も崩されずに他の石の上に残ることのない日が来る。」

◆終末の徴
(7)そこで、彼らはイエスに尋ねた。「先生、では、そのことはいつ起こるのですか。また、そのことが起こるときには、どんな徴があるのですか。」(8)イエスは言われた。「惑わされないように気をつけなさい。わたしの名を名乗る者が大勢現れ、『わたしがそれだ』とか、『時が近づいた』とか言うが、ついて行ってはならない。(9)戦争とか暴動のことを聞いても、おびえてはならない。こういうことがまず起こるに決まっているが、世の終わりはすぐには来ないからである。」(10)そして更に、言われた。「民は民に、国は国に敵対して立ち上がる。(11)そして、大きな地震があり、方々に飢饉や疫病が起こり、恐ろしい現象や著しい徴が天に現れる。(12)しかし、これらのことがすべて起こる前に、人々はあなたがたに手を下して迫害し、会堂や牢に引き渡し、わたしの名のために王や総督の前に引っ張って行く。(13)それはあなたがたにとって証しをする機会となる。(14)だから、前もって弁明の準備をするまいと、心に決めなさい。(15)どんな反対者でも、対抗も反論もできないような言葉と知恵を、わたしがあなたがたに授けるからである。(16)あなたがたは親、兄弟、親族、友人にまで裏切られる。中には殺される者もいる。(17)また、わたしの名のために、あなたがたはすべての人に憎まれる。
【新約・152頁】
(18)しかし、あなたがたの髪の毛の一本も決してなくならない。(19)忍耐によって、あなたがたは命をかち取りなさい。」

◆エルサレムの滅亡を予告する
(20)「エルサレムが軍隊に囲まれるのを見たら、その滅亡が近づいたことを悟りなさい。(21)そのとき、ユダヤにいる人々は山に逃げなさい。都の中にいる人々は、そこから立ち退きなさい。田舎にいる人々は都に入ってはならない。(22)書かれていることがことごとく実現する報復の日だからである。(23)それらの日には、身重の女と乳飲み子を持つ女は不幸だ。この地には大きな苦しみがあり、この民には神の怒りが下るからである。(24)人々は剣の刃に倒れ、捕虜となってあらゆる国に連れて行かれる。異邦人の時代が完了するまで、エルサレムは異邦人に踏み荒らされる。」

◆人の子が来る
(25)「それから、太陽と月と星に徴が現れる。地上では海がどよめき荒れ狂うので、諸国の民は、なすすべを知らず、不安に陥る。(26)人々は、この世界に何が起こるのかとおびえ、恐ろしさのあまり気を失うだろう。天体が揺り動かされるからである。(27)そのとき、人の子が大いなる力と栄光を帯びて雲に乗って来るのを、人々は見る。(28)このようなことが起こり始めたら、身を起こして頭を上げなさい。あなたがたの解放の時が近いからだ。」

◆「いちじくの木」のたとえ
(29)それから、イエスはたとえを話された。「いちじくの木や、ほかのすべての木を見なさい。(30)葉が出始めると、それを見て、既に夏の近づいたことがおのずと分かる。(31)それと同じように、あなたがたは、これらのことが起こるのを見たら、神の国が近づいていると悟りなさい。(32)はっきり言っておく。すべてのことが起こるまでは、この時代は決して滅びない。(33)天地は滅びるが、わたしの言葉は決して滅びない。」

◆目を覚ましていなさい
(34)「放縦や深酒や生活の煩いで、心が鈍くならないように注意しなさい。さもないと、その日が不意に罠のようにあなたがたを襲うことになる。(35)その日は、地の表のあらゆる所に住む人々すべてに襲いかかるからである。(36)しかし、あなたがたは、起ころうとしているこれらすべてのことから逃れて、人の子の前に立つことができるように、いつも目を覚まして祈りなさい。」

【新約・153頁】
(37)それからイエスは、日中は神殿の境内で教え、夜は出て行って「オリーブ畑」と呼ばれる山で過ごされた。(38)民衆は皆、話を聞こうとして、神殿の境内にいるイエスのもとに朝早くから集まって来た。

◆イエスを殺す計略
22
(1)さて、過越祭と言われている除酵祭が近づいていた。(2)祭司長たちや律法学者たちは、イエスを殺すにはどうしたらよいかと考えていた。彼らは民衆を恐れていたのである。(3)しかし、十二人の中の一人で、イスカリオテと呼ばれるユダの中に、サタンが入った。(4)ユダは祭司長たちや神殿守衛長たちのもとに行き、どのようにしてイエスを引き渡そうかと相談をもちかけた。(5)彼らは喜び、ユダに金を与えることに決めた。(6)ユダは承諾して、群衆のいないときにイエスを引き渡そうと、良い機会をねらっていた。

◆過越の食事を準備させる
(7)過越の小羊を屠るべき除酵祭の日が来た。(8)イエスはペトロとヨハネとを使いに出そうとして、「行って過越の食事ができるように準備しなさい」と言われた。(9)二人が、「どこに用意いたしましょうか」と言うと、(10)イエスは言われた。「都に入ると、水がめを運んでいる男に出会う。その人が入る家までついて行き、(11)家の主人にはこう言いなさい。『先生が、「弟子たちと一緒に過越の食事をする部屋はどこか」とあなたに言っています。』(12)すると、席の整った二階の広間を見せてくれるから、そこに準備をしておきなさい。」(13)二人が行ってみると、イエスが言われたとおりだったので、過越の食事を準備した。

◆主の晩餐
(14)時刻になったので、イエスは食事の席に着かれたが、使徒たちも一緒だった。(15)イエスは言われた。「苦しみを受ける前に、あなたがたと共にこの過越の食事をしたいと、わたしは切に願っていた。(16)言っておくが、神の国で過越が成し遂げられるまで、わたしは決してこの過越の食事をとることはない。」(17)そして、イエスは杯を取り上げ、感謝の祈りを唱えてから言われた。「これを取り、互いに回して飲みなさい。
【新約・154頁】
(18)言っておくが、神の国が来るまで、わたしは今後ぶどうの実から作ったものを飲むことは決してあるまい。」(19)それから、イエスはパンを取り、感謝の祈りを唱えて、それを裂き、使徒たちに与えて言われた。「これは、あなたがたのために与えられるわたしの体である。わたしの記念としてこのように行いなさい。」(20)食事を終えてから、杯も同じようにして言われた。「この杯は、あなたがたのために流される、わたしの血による新しい契約である。(21)しかし、見よ、わたしを裏切る者が、わたしと一緒に手を食卓に置いている。(22)人の子は、定められたとおり去って行く。だが、人の子を裏切るその者は不幸だ。」(23)そこで使徒たちは、自分たちのうち、いったいだれが、そんなことをしようとしているのかと互いに議論をし始めた。

◆いちばん偉い者
(24)また、使徒たちの間に、自分たちのうちでだれがいちばん偉いだろうか、という議論も起こった。(25)そこで、イエスは言われた。「異邦人の間では、王が民を支配し、民の上に権力を振るう者が守護者と呼ばれている。(26)しかし、あなたがたはそれではいけない。あなたがたの中でいちばん偉い人は、いちばん若い者のようになり、上に立つ人は、仕える者のようになりなさい。(27)食事の席に着く人と給仕する者とは、どちらが偉いか。食事の席に着く人ではないか。しかし、わたしはあなたがたの中で、いわば給仕する者である。(28)あなたがたは、わたしが種々の試練に遭ったとき、絶えずわたしと一緒に踏みとどまってくれた。(29)だから、わたしの父がわたしに支配権をゆだねてくださったように、わたしもあなたがたにそれをゆだねる。(30)あなたがたは、わたしの国でわたしの食事の席に着いて飲み食いを共にし、王座に座ってイスラエルの十二部族を治めることになる。」

◆ペトロの離反を予告する
(31)「シモン、シモン、サタンはあなたがたを、小麦のようにふるいにかけることを神に願って聞き入れられた。(32)しかし、わたしはあなたのために、信仰が無くならないように祈った。だから、あなたは立ち直ったら、兄弟たちを力づけてやりなさい。」(33)するとシモンは、「主よ、御一緒になら、牢に入っても死んでもよいと覚悟しております」と言った。(34)イエスは言われた。「ペトロ、言っておくが、あなたは今日、鶏が鳴くまでに、三度わたしを知らないと言うだろう。」

◆財布と袋と剣

【新約・155頁】
(35)それから、イエスは使徒たちに言われた。「財布も袋も履物も持たせずにあなたがたを遣わしたとき、何か不足したものがあったか。」彼らが、「いいえ、何もありませんでした」と言うと、(36)イエスは言われた。「しかし今は、財布のある者は、それを持って行きなさい。袋も同じようにしなさい。剣のない者は、服を売ってそれを買いなさい。(37)言っておくが、『その人は犯罪人の一人に数えられた』と書かれていることは、わたしの身に必ず実現する。わたしにかかわることは実現するからである。」(38)そこで彼らが、「主よ、剣なら、このとおりここに二振りあります」と言うと、イエスは、「それでよい」と言われた。

◆オリーブ山で祈る
(39)イエスがそこを出て、いつものようにオリーブ山に行かれると、弟子たちも従った。(40)いつもの場所に来ると、イエスは弟子たちに、「誘惑に陥らないように祈りなさい」と言われた。(41)そして自分は、石を投げて届くほどの所に離れ、ひざまずいてこう祈られた。(42)「父よ、御心なら、この杯をわたしから取りのけてください。しかし、わたしの願いではなく、御心のままに行ってください。」〔(43)すると、天使が天から現れて、イエスを力づけた。(44)イエスは苦しみもだえ、いよいよ切に祈られた。汗が血の滴るように地面に落ちた。〕(45)イエスが祈り終わって立ち上がり、弟子たちのところに戻って御覧になると、彼らは悲しみの果てに眠り込んでいた。(46)イエスは言われた。「なぜ眠っているのか。誘惑に陥らぬよう、起きて祈っていなさい。」

◆裏切られる
(47)イエスがまだ話しておられると、群衆が現れ、十二人の一人でユダという者が先頭に立って、イエスに接吻をしようと近づいた。(48)イエスは、「ユダ、あなたは接吻で人の子を裏切るのか」と言われた。(49)イエスの周りにいた人々は事の成り行きを見て取り、「主よ、剣で切りつけましょうか」と言った。(50)そのうちのある者が大祭司の手下に打ちかかって、その右の耳を切り落とした。(51)そこでイエスは、「やめなさい。もうそれでよい」と言い、その耳に触れていやされた。(52)それからイエスは、押し寄せて来た祭司長、神殿守衛長、長老たちに言われた。「まるで強盗にでも向かうように、剣や棒を持ってやって来たのか。(53)わたしは毎日、神殿の境内で一緒にいたのに、あなたたちはわたしに手を下さなかった。だが、今はあなたたちの時で、闇が力を振るっている。」

◆イエス、逮捕されるペトロ、イエスを知らないと言う

【新約・156頁】
(54)人々はイエスを捕らえ、引いて行き、大祭司の家に連れて入った。ペトロは遠く離れて従った。(55)人々が屋敷の中庭の中央に火をたいて、一緒に座っていたので、ペトロも中に混じって腰を下ろした。(56)するとある女中が、ペトロがたき火に照らされて座っているのを目にして、じっと見つめ、「この人も一緒にいました」と言った。(57)しかし、ペトロはそれを打ち消して、「わたしはあの人を知らない」と言った。(58)少したってから、ほかの人がペトロを見て、「お前もあの連中の仲間だ」と言うと、ペトロは、「いや、そうではない」と言った。(59)一時間ほどたつと、また別の人が、「確かにこの人も一緒だった。ガリラヤの者だから」と言い張った。(60)だが、ペトロは、「あなたの言うことは分からない」と言った。まだこう言い終わらないうちに、突然鶏が鳴いた。(61)主は振り向いてペトロを見つめられた。ペトロは、「今日、鶏が鳴く前に、あなたは三度わたしを知らないと言うだろう」と言われた主の言葉を思い出した。(62)そして外に出て、激しく泣いた。

◆暴行を受ける
(63)さて、見張りをしていた者たちは、イエスを侮辱したり殴ったりした。(64)そして目隠しをして、「お前を殴ったのはだれか。言い当ててみろ」と尋ねた。(65)そのほか、さまざまなことを言ってイエスをののしった。

◆最高法院で裁判を受ける
(66)夜が明けると、民の長老会、祭司長たちや律法学者たちが集まった。そして、イエスを最高法院に連れ出して、(67)「お前がメシアなら、そうだと言うがよい」と言った。イエスは言われた。「わたしが言っても、あなたたちは決して信じないだろう。(68)わたしが尋ねても、決して答えないだろう。(69)しかし、今から後、人の子は全能の神の右に座る。」(70)そこで皆の者が、「では、お前は神の子か」と言うと、イエスは言われた。「わたしがそうだとは、あなたたちが言っている。」(71)人々は、「これでもまだ証言が必要だろうか。我々は本人の口から聞いたのだ」と言った。

◆ピラトから尋問される
23

【新約・157頁】
(1)そこで、全会衆が立ち上がり、イエスをピラトのもとに連れて行った。(2)そして、イエスをこう訴え始めた。「この男はわが民族を惑わし、皇帝に税を納めるのを禁じ、また、自分が王たるメシアだと言っていることが分かりました。」(3)そこで、ピラトがイエスに、「お前がユダヤ人の王なのか」と尋問すると、イエスは、「それは、あなたが言っていることです」とお答えになった。(4)ピラトは祭司長たちと群衆に、「わたしはこの男に何の罪も見いだせない」と言った。(5)しかし彼らは、「この男は、ガリラヤから始めてこの都に至るまで、ユダヤ全土で教えながら、民衆を扇動しているのです」と言い張った。

◆ヘロデから尋問される
(6)これを聞いたピラトは、この人はガリラヤ人かと尋ね、(7)ヘロデの支配下にあることを知ると、イエスをヘロデのもとに送った。ヘロデも当時、エルサレムに滞在していたのである。(8)彼はイエスを見ると、非常に喜んだ。というのは、イエスのうわさを聞いて、ずっと以前から会いたいと思っていたし、イエスが何かしるしを行うのを見たいと望んでいたからである。(9)それで、いろいろと尋問したが、イエスは何もお答えにならなかった。(10)祭司長たちと律法学者たちはそこにいて、イエスを激しく訴えた。(11)ヘロデも自分の兵士たちと一緒にイエスをあざけり、侮辱したあげく、派手な衣を着せてピラトに送り返した。(12)この日、ヘロデとピラトは仲がよくなった。それまでは互いに敵対していたのである。

◆死刑の判決を受ける
(13)ピラトは、祭司長たちと議員たちと民衆とを呼び集めて、(14)言った。「あなたたちは、この男を民衆を惑わす者としてわたしのところに連れて来た。わたしはあなたたちの前で取り調べたが、訴えているような犯罪はこの男には何も見つからなかった。(15)ヘロデとても同じであった。それで、我々のもとに送り返してきたのだが、この男は死刑に当たるようなことは何もしていない。(16)だから、鞭で懲らしめて釈放しよう。」†(18)しかし、人々は一斉に、「その男を殺せ。バラバを釈放しろ」と叫んだ。(19)このバラバは、都に起こった暴動と殺人のかどで投獄されていたのである。(20)ピラトはイエスを釈放しようと思って、改めて呼びかけた。
【新約・158頁】
(21)しかし人々は、「十字架につけろ、十字架につけろ」と叫び続けた。(22)ピラトは三度目に言った。「いったい、どんな悪事を働いたと言うのか。この男には死刑に当たる犯罪は何も見つからなかった。だから、鞭で懲らしめて釈放しよう。」(23)ところが人々は、イエスを十字架につけるようにあくまでも大声で要求し続けた。その声はますます強くなった。(24)そこで、ピラトは彼らの要求をいれる決定を下した。(25)そして、暴動と殺人のかどで投獄されていたバラバを要求どおりに釈放し、イエスの方は彼らに引き渡して、好きなようにさせた。

◆十字架につけられる
(26)人々はイエスを引いて行く途中、田舎から出て来たシモンというキレネ人を捕まえて、十字架を背負わせ、イエスの後ろから運ばせた。(27)民衆と嘆き悲しむ婦人たちが大きな群れを成して、イエスに従った。(28)イエスは婦人たちの方を振り向いて言われた。「エルサレムの娘たち、わたしのために泣くな。むしろ、自分と自分の子供たちのために泣け。(29)人々が、『子を産めない女、産んだことのない胎、乳を飲ませたことのない乳房は幸いだ』と言う日が来る。
(30)そのとき、人々は山に向かっては、
『我々の上に崩れ落ちてくれ』と言い、
丘に向かっては、
『我々を覆ってくれ』と言い始める。
(31)『生の木』さえこうされるのなら、『枯れた木』はいったいどうなるのだろうか。」
(32)ほかにも、二人の犯罪人が、イエスと一緒に死刑にされるために、引かれて行った。(33)「されこうべ」と呼ばれている所に来ると、そこで人々はイエスを十字架につけた。犯罪人も、一人は右に一人は左に、十字架につけた。(34)〔そのとき、イエスは言われた。「父よ、彼らをお赦しください。自分が何をしているのか知らないのです。」〕人々はくじを引いて、イエスの服を分け合った。(35)民衆は立って見つめていた。議員たちも、あざ笑って言った。「他人を救ったのだ。もし神からのメシアで、選ばれた者なら、自分を救うがよい。」(36)兵士たちもイエスに近寄り、酸いぶどう酒を突きつけながら侮辱して、(37)言った。「お前がユダヤ人の王なら、自分を救ってみろ。」(38)イエスの頭の上には、「これはユダヤ人の王」と書いた札も掲げてあった。
(39)十字架にかけられていた犯罪人の一人が、イエスをののしった。「お前はメシアではないか。自分自身と我々を救ってみろ。」(40)すると、もう一人の方がたしなめた。「お前は神をも恐れないのか、同じ刑罰を受けているのに。
【新約・159頁】
(41)我々は、自分のやったことの報いを受けているのだから、当然だ。しかし、この方は何も悪いことをしていない。」(42)そして、「イエスよ、あなたの御国においでになるときには、わたしを思い出してください」と言った。(43)するとイエスは、「はっきり言っておくが、あなたは今日わたしと一緒に楽園にいる」と言われた。

◆イエスの死
(44)既に昼の十二時ごろであった。全地は暗くなり、それが三時まで続いた。(45)太陽は光を失っていた。神殿の垂れ幕が真ん中から裂けた。(46)イエスは大声で叫ばれた。「父よ、わたしの霊を御手にゆだねます。」こう言って息を引き取られた。(47)百人隊長はこの出来事を見て、「本当に、この人は正しい人だった」と言って、神を賛美した。(48)見物に集まっていた群衆も皆、これらの出来事を見て、胸を打ちながら帰って行った。(49)イエスを知っていたすべての人たちと、ガリラヤから従って来た婦人たちとは遠くに立って、これらのことを見ていた。

◆墓に葬られる
(50)さて、ヨセフという議員がいたが、善良な正しい人で、(51)同僚の決議や行動には同意しなかった。ユダヤ人の町アリマタヤの出身で、神の国を待ち望んでいたのである。(52)この人がピラトのところに行き、イエスの遺体を渡してくれるようにと願い出て、(53)遺体を十字架から降ろして亜麻布で包み、まだだれも葬られたことのない、岩に掘った墓の中に納めた。(54)その日は準備の日であり、安息日が始まろうとしていた。(55)イエスと一緒にガリラヤから来た婦人たちは、ヨセフの後について行き、墓と、イエスの遺体が納められている有様とを見届け、(56)家に帰って、香料と香油を準備した。

◆復活する
婦人たちは、安息日には掟に従って休んだ。
24(1)そして、週の初めの日の明け方早く、準備しておいた香料を持って墓に行った。(2)見ると、石が墓のわきに転がしてあり、(3)中に入っても、主イエスの遺体が見当たらなかった。(4)そのため途方に暮れていると、輝く衣を着た二人の人がそばに現れた。(5)婦人たちが恐れて地に顔を伏せると、二人は言った。「なぜ、生きておられる方を死者の中に捜すのか。
【新約・160頁】
(6)あの方は、ここにはおられない。復活なさったのだ。まだガリラヤにおられたころ、お話しになったことを思い出しなさい。(7)人の子は必ず、罪人の手に渡され、十字架につけられ、三日目に復活することになっている、と言われたではないか。」(8)そこで、婦人たちはイエスの言葉を思い出した。(9)そして、墓から帰って、十一人とほかの人皆に一部始終を知らせた。(10)それは、マグダラのマリア、ヨハナ、ヤコブの母マリア、そして一緒にいた他の婦人たちであった。婦人たちはこれらのことを使徒たちに話したが、(11)使徒たちは、この話がたわ言のように思われたので、婦人たちを信じなかった。(12)しかし、ペトロは立ち上がって墓へ走り、身をかがめて中をのぞくと、亜麻布しかなかったので、この出来事に驚きながら家に帰った。

◆エマオで現れる
(13)ちょうどこの日、二人の弟子が、エルサレムから六十スタディオン離れたエマオという村へ向かって歩きながら、(14)この一切の出来事について話し合っていた。(15)話し合い論じ合っていると、イエス御自身が近づいて来て、一緒に歩き始められた。(16)しかし、二人の目は遮られていて、イエスだとは分からなかった。(17)イエスは、「歩きながら、やり取りしているその話は何のことですか」と言われた。二人は暗い顔をして立ち止まった。(18)その一人のクレオパという人が答えた。「エルサレムに滞在していながら、この数日そこで起こったことを、あなただけはご存じなかったのですか。」(19)イエスが、「どんなことですか」と言われると、二人は言った。「ナザレのイエスのことです。この方は、神と民全体の前で、行いにも言葉にも力のある預言者でした。(20)それなのに、わたしたちの祭司長たちや議員たちは、死刑にするため引き渡して、十字架につけてしまったのです。(21)わたしたちは、あの方こそイスラエルを解放してくださると望みをかけていました。しかも、そのことがあってから、もう今日で三日目になります。(22)ところが、仲間の婦人たちがわたしたちを驚かせました。婦人たちは朝早く墓へ行きましたが、(23)遺体を見つけずに戻って来ました。そして、天使たちが現れ、『イエスは生きておられる』と告げたと言うのです。(24)仲間の者が何人か墓へ行ってみたのですが、婦人たちが言ったとおりで、あの方は見当たりませんでした。」(25)そこで、イエスは言われた。「ああ、物分かりが悪く、心が鈍く預言者たちの言ったことすべてを信じられない者たち、(26)メシアはこういう苦しみを受けて、栄光に入るはずだったのではないか。」
【新約・161頁】
(27)そして、モーセとすべての預言者から始めて、聖書全体にわたり、御自分について書かれていることを説明された。
(28)一行は目指す村に近づいたが、イエスはなおも先へ行こうとされる様子だった。(29)二人が、「一緒にお泊まりください。そろそろ夕方になりますし、もう日も傾いていますから」と言って、無理に引き止めたので、イエスは共に泊まるため家に入られた。(30)一緒に食事の席に着いたとき、イエスはパンを取り、賛美の祈りを唱え、パンを裂いてお渡しになった。(31)すると、二人の目が開け、イエスだと分かったが、その姿は見えなくなった。(32)二人は、「道で話しておられるとき、また聖書を説明してくださったとき、わたしたちの心は燃えていたではないか」と語り合った。(33)そして、時を移さず出発して、エルサレムに戻ってみると、十一人とその仲間が集まって、(34)本当に主は復活して、シモンに現れたと言っていた。(35)二人も、道で起こったことや、パンを裂いてくださったときにイエスだと分かった次第を話した。

◆弟子たちに現れる
(36)こういうことを話していると、イエス御自身が彼らの真ん中に立ち、「あなたがたに平和があるように」と言われた。(37)彼らは恐れおののき、亡霊を見ているのだと思った。(38)そこで、イエスは言われた。「なぜ、うろたえているのか。どうして心に疑いを起こすのか。(39)わたしの手や足を見なさい。まさしくわたしだ。触ってよく見なさい。亡霊には肉も骨もないが、あなたがたに見えるとおり、わたしにはそれがある。」(40)こう言って、イエスは手と足をお見せになった。(41)彼らが喜びのあまりまだ信じられず、不思議がっているので、イエスは、「ここに何か食べ物があるか」と言われた。(42)そこで、焼いた魚を一切れ差し出すと、(43)イエスはそれを取って、彼らの前で食べられた。
(44)イエスは言われた。「わたしについてモーセの律法と預言者の書と詩編に書いてある事柄は、必ずすべて実現する。これこそ、まだあなたがたと一緒にいたころ、言っておいたことである。」(45)そしてイエスは、聖書を悟らせるために彼らの心の目を開いて、(46)言われた。「次のように書いてある。『メシアは苦しみを受け、三日目に死者の中から復活する。(47)また、罪の赦しを得させる悔い改めが、その名によってあらゆる国の人々に宣べ伝えられる』と。エルサレムから始めて、
【新約・162頁】
(48)あなたがたはこれらのことの証人となる。(49)わたしは、父が約束されたものをあなたがたに送る。高い所からの力に覆われるまでは、都にとどまっていなさい。」

◆天に上げられる
(50)イエスは、そこから彼らをベタニアの辺りまで連れて行き、手を上げて祝福された。(51)そして、祝福しながら彼らを離れ、天に上げられた。(52)彼らはイエスを伏し拝んだ後、大喜びでエルサレムに帰り、(53)絶えず神殿の境内にいて、神をほめたたえていた。

底本に節が欠けている個所の異本による訳文

17 (36) 畑に二人の男がいれば、一人は連れて行かれ、他の一人は残される。

23 (17) 祭りの度ごとに、ピラトは、囚人を一人彼らに釈放してやらなければならなかった。