ルカによる福音書4章

◆誘惑を受ける


(1)さて、イエスは聖霊に満ちて、ヨルダン川からお帰りになった。そして、荒れ野の中を“霊”によって引き回され、(2)四十日間、悪魔から誘惑を受けられた。その間、何も食べず、その期間が終わると空腹を覚えられた。(3)そこで、悪魔はイエスに言った。「神の子なら、この石にパンになるように命じたらどうだ。」(4)イエスは、「『人はパンだけで生きるものではない』と書いてある」とお答えになった。(5)更に、悪魔はイエスを高く引き上げ、一瞬のうちに世界のすべての国々を見せた。(6)そして悪魔は言った。「この国々の一切の権力と繁栄とを与えよう。それはわたしに任されていて、これと思う人に与えることができるからだ。(7)だから、もしわたしを拝むなら、みんなあなたのものになる。」(8)イエスはお答えになった。
「『あなたの神である主を拝み、
ただ主に仕えよ』
と書いてある。」(9)そこで、悪魔はイエスをエルサレムに連れて行き、神殿の屋根の端に立たせて言った。「神の子なら、ここから飛び降りたらどうだ。(10)というのは、こう書いてあるからだ。
『神はあなたのために天使たちに命じて、
あなたをしっかり守らせる。』
(11)また、
『あなたの足が石に打ち当たることのないように、
天使たちは手であなたを支える。』」
(12)イエスは、「『あなたの神である主を試してはならない』と言われている」とお答えになった。(13)悪魔はあらゆる誘惑を終えて、時が来るまでイエスを離れた。

◆ガリラヤで伝道を始める
(14)イエスは“霊”の力に満ちてガリラヤに帰られた。その評判が周りの地方一帯に広まった。(15)イエスは諸会堂で教え、皆から尊敬を受けられた。

◆ナザレで受け入れられない
(16)イエスはお育ちになったナザレに来て、いつものとおり安息日に会堂に入り、聖書を朗読しようとしてお立ちになった。(17)預言者イザヤの巻物が渡され、お開きになると、次のように書いてある個所が目に留まった。
(18)「主の霊がわたしの上におられる。
貧しい人に福音を告げ知らせるために、
主がわたしに油を注がれたからである。
主がわたしを遣わされたのは、
捕らわれている人に解放を、
目の見えない人に視力の回復を告げ、
圧迫されている人を自由にし、

(19)主の恵みの年を告げるためである。」
(20)イエスは巻物を巻き、係の者に返して席に座られた。会堂にいるすべての人の目がイエスに注がれていた。(21)そこでイエスは、「この聖書の言葉は、今日、あなたがたが耳にしたとき、実現した」と話し始められた。(22)皆はイエスをほめ、その口から出る恵み深い言葉に驚いて言った。「この人はヨセフの子ではないか。」(23)イエスは言われた。「きっと、あなたがたは、『医者よ、自分自身を治せ』ということわざを引いて、『カファルナウムでいろいろなことをしたと聞いたが、郷里のここでもしてくれ』と言うにちがいない。」(24)そして、言われた。「はっきり言っておく。預言者は、自分の故郷では歓迎されないものだ。(25)確かに言っておく。エリヤの時代に三年六か月の間、雨が降らず、その地方一帯に大飢饉が起こったとき、イスラエルには多くのやもめがいたが、(26)エリヤはその中のだれのもとにも遣わされないで、シドン地方のサレプタのやもめのもとにだけ遣わされた。(27)また、預言者エリシャの時代に、イスラエルにはらい病を患っている人が多くいたが、シリア人ナアマンのほかはだれも清くされなかった。」(28)これを聞いた会堂内の人々は皆憤慨し、(29)総立ちになって、イエスを町の外へ追い出し、町が建っている山の崖まで連れて行き、突き落とそうとした。(30)しかし、イエスは人々の間を通り抜けて立ち去られた。

◆汚れた霊に取りつかれた男をいやす
(31)イエスはガリラヤの町カファルナウムに下って、安息日には人々を教えておられた。(32)人々はその教えに非常に驚いた。その言葉には権威があったからである。(33)ところが会堂に、汚れた悪霊に取りつかれた男がいて、大声で叫んだ。(34)「ああ、ナザレのイエス、かまわないでくれ。我々を滅ぼしに来たのか。正体は分かっている。神の聖者だ。」(35)イエスが、「黙れ。この人から出て行け」とお叱りになると、悪霊はその男を人々の中に投げ倒し、何の傷も負わせずに出て行った。(36)人々は皆驚いて、互いに言った。「この言葉はいったい何だろう。権威と力とをもって汚れた霊に命じると、出て行くとは。」(37)こうして、イエスのうわさは、辺り一帯に広まった。

◆多くの病人をいやす

(38)イエスは会堂を立ち去り、シモンの家にお入りになった。シモンのしゅうとめが高い熱に苦しんでいたので、人々は彼女のことをイエスに頼んだ。(39)イエスが枕もとに立って熱を叱りつけられると、熱は去り、彼女はすぐに起き上がって一同をもてなした。(40)日が暮れると、いろいろな病気で苦しむ者を抱えている人が皆、病人たちをイエスのもとに連れて来た。イエスはその一人一人に手を置いていやされた。(41)悪霊もわめき立て、「お前は神の子だ」と言いながら、多くの人々から出て行った。イエスは悪霊を戒めて、ものを言うことをお許しにならなかった。悪霊は、イエスをメシアだと知っていたからである。

◆巡回して宣教する
(42)朝になると、イエスは人里離れた所へ出て行かれた。群衆はイエスを捜し回ってそのそばまで来ると、自分たちから離れて行かないようにと、しきりに引き止めた。(43)しかし、イエスは言われた。「ほかの町にも神の国の福音を告げ知らせなければならない。わたしはそのために遣わされたのだ。」(44)そして、ユダヤの諸会堂に行って宣教された。