マルコによる福音書12章
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(1)イエスは、たとえで彼らに話し始められた。「ある人がぶどう園を作り、垣を巡らし、搾り場を掘り、見張りのやぐらを立て、これを農夫たちに貸して旅に出た。(2)収穫の時になったので、ぶどう園の収穫を受け取るために、僕を農夫たちのところへ送った。(3)だが、農夫たちは、この僕を捕まえて袋だたきにし、何も持たせないで帰した。(4)そこでまた、他の僕を送ったが、農夫たちはその頭を殴り、侮辱した。(5)更に、もう一人を送ったが、今度は殺した。そのほかに多くの僕を送ったが、ある者は殴られ、ある者は殺された。(6)まだ一人、愛する息子がいた。『わたしの息子なら敬ってくれるだろう』と言って、最後に息子を送った。
【新約・86頁】
(7)農夫たちは話し合った。『これは跡取りだ。さあ、殺してしまおう。そうすれば、相続財産は我々のものになる。』(8)そして、息子を捕まえて殺し、ぶどう園の外にほうり出してしまった。(9)さて、このぶどう園の主人は、どうするだろうか。戻って来て農夫たちを殺し、ぶどう園をほかの人たちに与えるにちがいない。(10)聖書にこう書いてあるのを読んだことがないのか。
『家を建てる者の捨てた石、
これが隅の親石となった。
(11)これは、主がなさったことで、
わたしたちの目には不思議に見える。』」
(12)彼らは、イエスが自分たちに当てつけてこのたとえを話されたと気づいたので、イエスを捕らえようとしたが、群衆を恐れた。それで、イエスをその場に残して立ち去った。
(13)さて、人々は、イエスの言葉じりをとらえて陥れようとして、ファリサイ派やヘロデ派の人を数人イエスのところに遣わした。(14)彼らは来て、イエスに言った。「先生、わたしたちは、あなたが真実な方で、だれをもはばからない方であることを知っています。人々を分け隔てせず、真理に基づいて神の道を教えておられるからです。ところで、皇帝に税金を納めるのは、律法に適っているでしょうか、適っていないでしょうか。納めるべきでしょうか、納めてはならないのでしょうか。」(15)イエスは、彼らの下心を見抜いて言われた。「なぜ、わたしを試そうとするのか。デナリオン銀貨を持って来て見せなさい。」(16)彼らがそれを持って来ると、イエスは、「これは、だれの肖像と銘か」と言われた。彼らが、「皇帝のものです」と言うと、(17)イエスは言われた。「皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返しなさい。」彼らは、イエスの答えに驚き入った。
(18)復活はないと言っているサドカイ派の人々が、イエスのところへ来て尋ねた。(19)「先生、モーセはわたしたちのために書いています。『ある人の兄が死に、妻を後に残して子がない場合、その弟は兄嫁と結婚して、兄の跡継ぎをもうけねばならない』と。(20)ところで、七人の兄弟がいました。長男が妻を迎えましたが、跡継ぎを残さないで死にました。(21)次男がその女を妻にしましたが、跡継ぎを残さないで死に、三男も同様でした。(22)こうして、七人とも跡継ぎを残しませんでした。最後にその女も死にました。(23)復活の時、彼らが復活すると、その女はだれの妻になるのでしょうか。七人ともその女を妻にしたのです。」
(24)イエスは言われた。「あなたたちは聖書も神の力も知らないから、そんな思い違いをしているのではないか。(25)死者の中から復活するときには、めとることも嫁ぐこともなく、天使のようになるのだ。(26)死者が復活することについては、モーセの書の『柴』の個所で、神がモーセにどう言われたか、読んだことがないのか。『わたしはアブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神である』とあるではないか。(27)神は死んだ者の神ではなく、生きている者の神なのだ。あなたたちは大変な思い違いをしている。」
(28)彼らの議論を聞いていた一人の律法学者が進み出、イエスが立派にお答えになったのを見て、尋ねた。「あらゆる掟のうちで、どれが第一でしょうか。」(29)イエスはお答えになった。「第一の掟は、これである。『イスラエルよ、聞け、わたしたちの神である主は、唯一の主である。(30)心を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くし、力を尽くして、あなたの神である主を愛しなさい。』(31)第二の掟は、これである。『隣人を自分のように愛しなさい。』この二つにまさる掟はほかにない。」(32)律法学者はイエスに言った。「先生、おっしゃるとおりです。『神は唯一である。ほかに神はない』とおっしゃったのは、本当です。(33)そして、『心を尽くし、知恵を尽くし、力を尽くして神を愛し、また隣人を自分のように愛する』ということは、どんな焼き尽くす献げ物やいけにえよりも優れています。」(34)イエスは律法学者が適切な答えをしたのを見て、「あなたは、神の国から遠くない」と言われた。もはや、あえて質問する者はなかった。
(35)イエスは神殿の境内で教えていたとき、こう言われた。「どうして律法学者たちは、『メシアはダビデの子だ』と言うのか。(36)ダビデ自身が聖霊を受けて言っている。
『主は、わたしの主にお告げになった。
「わたしの右の座に着きなさい。
わたしがあなたの敵を
あなたの足もとに屈服させるときまで」と。』
(37)このようにダビデ自身がメシアを主と呼んでいるのに、どうしてメシアがダビデの子なのか。」大勢の群衆は、イエスの教えに喜んで耳を傾けた。
(38)イエスは教えの中でこう言われた。「律法学者に気をつけなさい。彼らは、長い衣をまとって歩き回ることや、広場で挨拶されること、(39)会堂では上席、宴会では上座に座ることを望み、(40)また、やもめの家を食い物にし、見せかけの長い祈りをする。このような者たちは、人一倍厳しい裁きを受けることになる。」
(41)イエスは賽銭箱の向かいに座って、群衆がそれに金を入れる様子を見ておられた。大勢の金持ちがたくさん入れていた。(42)ところが、一人の貧しいやもめが来て、レプトン銅貨二枚、すなわち一クァドランスを入れた。(43)イエスは、弟子たちを呼び寄せて言われた。「はっきり言っておく。この貧しいやもめは、賽銭箱に入れている人の中で、だれよりもたくさん入れた。(44)皆は有り余る中から入れたが、この人は、乏しい中から自分の持っている物をすべて、生活費を全部入れたからである。」