低さを極めた救い主の誕生 |
ルカによる福音書2章1節から20節 参照 |
ルカによる福音書は他の福音書と比べ て、それまでにあまり聖書にふれず、神を知 らなかった異邦の国の人々に福音を伝えよ うとして記されたと言われいます。イスラ エルの人々だけでなく、世界の人々をその 視野に入れているのが大きな特徴です。 その観点から見ると、キリストの誕生を告げる天使の声、「恐れるな。わたしは、民全体(ある いは、すべての民)に与えられる大きな喜び を告げる。今日ダビデの町で、あなたがたのために救い主がお生まれになった。この方こ そ主メシア(キリスト)である。」(10-11節)と は、この福音書が知らせたい中心的なメッセ -ジではないでしょうか。このキリストの誕生 は民全体、さらには世界の民全体に与えら れる大きな喜びであると。従って、このダビデ の町(ベツレヘム)で起こったことは、そこにと どまらず、民全体に、また世界に向かって伝 えられるべきであると。このような確信を持っ ていたからでしょう。 ルカはキリストの誕生物 語を当時の世界で最も知られていた人物、 ロ-マ皇帝アウグストゥスと関連づけて、「そ のころ、皇帝アウグストゥスから全領土の住 民に、登録をせよとの勤令が出た。」(1節)こ とから始めています。 この皇帝アウグストゥスとはいかなる人物でし ょうか。彼は本業、オクタヴィアヌスという名の ローマの一政治家であり、それまで混乱の 絶えなかったローマの政治を正し、さらにエジプトを併合し、イタリアの北方のアルプスま で帝国を拡大し、数々の功によりローマの初代皇帝になった人です。 彼は世界に、「ローマによる平和」を達成しました。この ようなす ぐれた軍人政治家である彼をたたえてつけ られた名が「アウグストゥス」、つまり尊ぶへき 方、崇拝すべき方という尊称です。彼の名は 帝国内に轟き、ある都市は彼の誕生の日を 暦の元日とする程でした。それを決めた都市の決議では、「神々の摂理が我らと我らの 子孫のために、かの人を救い主としてつか わされた。この神の生まれたもうた日と共に、 神のー連の福音(ローマによる平和)が開始 された」と彼をたたえています。このように 彼は、当時のローマの頂点を極めた人として、 世界に知られていました。 福音書記者ルカはこの皇帝アウグストゥス と同様に、またそれ以上に、ダビデの町に生まれた救い主を世界に知らせたいと思いまし た。というのは、この救い主はアツグストゥスとは大きく 違い、いわばすべての民に救いと喜びを与 える方だったからです。アウグストゥスによる ローマによる平和が、どんなにたたえられた としても、その恩恵は限られた人々の与れる ものであり、極論すればローマの民だけのも のでした。 ローマから離れた遥か東方ユダ ヤでは、住民登録という手段で人々は頭数 を教えられ、重い税を課せられ、そのために 妊婦マリアも危険な旅を強いられるほど非情 なものでした。 しかしそのような頂点からかけ離れた辺地の ベツレヘムで、しかも飼い葉桶に寝かされた 幼な子が、すべての民のために神から与え られた救い主だったのです。すべての人が、 その救いの喜びにあずかるために、キリストは最も低い場所を選ばれたのです。人の弱 さ、貧しさ、苦悩を背負うために、低さを極められました。これが神がその愛によって天か ら送られた救い主キリストでした。 |
シャロン80号橋爪忠夫牧師メッセージ |